現場主導によるDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいるNTT東日本。同社では、通信設備の保守を主業務とする社員が、プログラミングを学びながら業務の生産性を向上するためのデジタル化を模索、工具持ち出し管理のスマート化などの成果が生まれているという。

今回、NTT東日本-南関東 東京事業部 東京南支店 設備部 エリアコーディネート担当 大網優太氏、得地凌平氏に、同支店における取り組みの背景、現状、今後の展望を聞いた。

  • 左から、NTT東日本-南関東 東京事業部 東京南支店 設備部 エリアコーディネート担当 得地凌平氏、担当課長 大網優太氏

現場を知る人間が学びながら進める

大網氏らが所属する設備部は、同社が東日本に張り巡らせている通信設備の保守を行っている。回線サービスの普及に伴い収益の増加が鈍化する中で、設備維持にかかるコストを抑え、新しい収益構造を考えていくという課題が全社レベルであった。

それまでは「どちらかというとアナログ的に、設備を物理的につなぐ仕事が中心でした。しかし、世界的にITを使った新しい働き方を推進する動きが見られ、われわれも地域を支えるICT企業として、今までにない領域にどんどん挑戦していこうという構想がありました」と、得地氏は話す。

そのために、まずは現業の業務を効率化することから着手、直接収益に関わらない仕事を極力抑えていこうとなったそうだ。2~3年前のことだ。

  • NTT東日本-南関東 東京事業部 東京南支店 設備部 エリアコーディネート担当 得地凌平氏

チーム作りの中で重要視したのは、現場を知る人が中心になって進めること。「実はこれまでも社内でDXを進めていましたが、施策を立ち上げては消えてしまうことが多くありました。業務を知っている人とDXのスキルがある人の間に乖離があり、実施したDXの取り組みが、根本的な業務の課題解決につながっていなかったことが主な要因かと思います」と、得地氏は説明する。

得地氏をはじめ、プロジェクトに集まったメンバーはプログラミングのスキルを備えていなかった。そこで、「技術を勉強しながら各方面と調整をしつつ、実際に手を動かすスキルのある若い世代をうまくハンドリングする体制を意識して作りました」と得地氏はいう。メンバーは自ら手を挙げた人ばかりで、人数にして14人程度で、組織の3~4%となる。

出社から退社まで間接業務ゼロを実現するための変革の3ステップ

間接業務をゼロにして社員の生産性を2倍に――そのような目標を掲げて始まったNTT東日本 東京南支店のDXは、3つのステップに分かれている。

最初のステップ(STEP1)は、デジタル化として、クラウド(AWS)上にデータを蓄積し、今後の業務改革の基幹となるWebアプリの開発を中心に行う。次のステップ(STEP2)はWebサービス化を行い、各種社内システムとシームレスに接続し、人の手を介する作業をなくしていく。最後のステップ(STEP3)では、人、モノ、コトで分散している業務を廃止・集約し、業務改革を実現する。

  • NTT東日本 東京南支店のオンサイトオペレーションの変革

チームは現在、STEP1として、「施設工具管理」「在庫管理」などのスマート化を実施しているところだ。

例えば、それまで高額な測定器などの施設工具の持ち出しは紙ベースで管理していたところ、センサーとタブレットを使ってデジタルで管理することにした。工具の管理は衣料品店などで使われている万引き防止のタグを使って実現し、その先のデータを開発したWebアプリに連携できるようチームで開発した。

また、モジュラージャックやコネクタなどの消耗品の在庫を紙ベースで管理し、手動で発注していたところ、自動発注できる仕組みを構築した。この仕組みは、NTTグループの「WinActor」を利用し、個数を判定できる重量センサーを用いることで、一定数を下回ったら自動発注するものである。

なお、このような新しい仕組みに現場からの反発がなかったといえば嘘になる。「現場の人が使い慣れたやり方で進めたいのは当たり前のこと。現場は今日の仕事をトラブルなく円滑に終わらせることを考えていますが、DXを進めようとしている施策主幹は1年後、2年後を考えています。ある程度の反発は仕方ありません」と得地氏。

そのような時は「なぜアプリを使ってもらえないのか」という原点に立ち返り、アプリの改善を進めながら、現場の人には強制することなく、新しいやり方を提示し続けるという。

これまで成果については、「人手を介さなくなったことで得られる時間は、正味1日2~3分のレベル」と得地氏は認める。RPAについても、「PCの中で動いているので、その間PCを使った仕事ができなくなる」という。

このように取り組みを振り返った後、「将来的には、PCを占有するような自動化ではなく、クラウド側に移していきたいです」と、得地氏は力強く話す。変革まで進めるには、自分の仕事がどうあるべきかを再考する必要があるため、「今は種まきの段階」と表現していた。

上司の大網氏も、「プロジェクトが進むうちに、目標に向かっていろいろな案が出るようになりました。意識が変わってきたと感じています」と評価する。

「自分たちがスキルを習得したことで、この問題はこんなふうに解決できるのではという意見が出せるようになったことが大きな収穫です」と、大網氏は変化を語った。

  • NTT東日本-南関東 東京事業部 東京南支店 設備部 エリアコーディネート担当 担当課長 大網優太氏

東日本エリア内へ横展開、地域とも学びを共有

種まきの次は、ステップ2、ステップ3へと進めていく。計画では2023年度にステップ2を完了させ、ステップ3に必要なツールや技術部分を整える。2024年度には多くの組織において新しい仕組みで仕事をしていく形にしたい、と大網氏は話す。

開発したシステムの横展開も進める。東日本の他の拠点でも同じような仕組みが適用可能な組織に働きかけており、1つのプラットフォームでやろうという話も出ているそうだ。

「同じ手続きのために各拠点がそれぞれにツールを導入したり、独自のやり方を構築したりしています。同じものを使って仕事をすることに同意ができれば、それに対するアプローチも1つで済みます」と、得地氏は横展開の狙いを語る。

そこでもポイントは、“便利だからツールを導入する”ではなく、“実際に業務がどうなっているのかを見直す”ことだという。そのようなことから、今会社に不足しているDX人材とは、プログラミングができるではなく、業務を理解している人だと言い切る。

大網氏は、「DXのX(トランスフォーメーション)を実現するには、前後の仕事の関係、横の関係などが把握できる必要があり、現場の作業だけに没頭していると難しいです。今回、現場の社員が内勤をしているデスクの社員と深く議論することで、広い目線を持てるようになりました」と述べ、開発に必要な環境の重要性を強調した。

その先は、地域への展開も視野に入れる。昨年11月には、地域の産業振興に関わる機関にこの取り組みを紹介したところ好評だったという。自社に閉じるのではなく、「地域の価値創造事業を共に進めていきたいです」と、大網氏は今後の展望を語っていた。