ヒト表皮細胞を用いた実験の結果、TRPV3を活性化する成分であるカンフル(樟脳)を表皮細胞に作用させると、クロライドイオンに由来する電流が流れることがわかった。そして、ANO1チャネルの働きを阻害する薬剤を加えた時にだけ、電流が小さくなることも確認された。このことは、TRPV3の活性化がANO1の活性化を誘導し、クロライドイオンチャネル由来の電流が流れていることが示されたとする。

さらに、人工的に傷の治癒を模した実験により、表皮細胞の動きの観察が行われた。すると、ANO1の働きを阻害する薬剤の存在下では、表皮細胞の動きが遅くなり増殖が抑制されることも明らかにされた。また同様の実験を、クロライドイオンを減らした培養液の中で行うと、ANO1の働きを阻害した場合と同じように表皮細胞の動きが遅くなり、増殖も抑制されることがわかった。さらに、表皮細胞内のクロライドイオン濃度が測定されたところ、細胞外のクロライドイオン濃度よりも低く保たれていることが確かめられた。

  • (左)人工傷モデルにおいて、ANO1は表皮細胞の動きや増殖に重要であることがわかった。ANO1の阻害剤がない場合は時間経過と共にスペースが埋まっていくが、阻害剤が入っている場合はほとんどスペースが埋まらない。(右)同様に人工傷モデルにおいて、クロライドイオンも表皮細胞の動きや増殖に重要であることが確認された。低クロライド培養液では、ANO1阻害剤を用いた場合と同様に、ほとんどスペースが埋まらなかった

    (左)人工傷モデルにおいて、ANO1は表皮細胞の動きや増殖に重要であることがわかった。ANO1の阻害剤がない場合は時間経過と共にスペースが埋まっていくが、阻害剤が入っている場合はほとんどスペースが埋まらない。(右)同様に人工傷モデルにおいて、クロライドイオンも表皮細胞の動きや増殖に重要であることが確認された。低クロライド培養液では、ANO1阻害剤を用いた場合と同様に、ほとんどスペースが埋まらなかった(出所:生理研Webサイト)

研究チームはこれらの結果から、TRPV3により活性化されたANO1を介してクロライドイオンが細胞内へ流入することが、表皮細胞による傷の修復に重要であることが考えられるとする。

ANO1やクロライドイオンと傷の治癒の関係は、これまであまり注目されていなかったという。今回の結果が、さらなる傷の治癒のメカニズム解明に役立ち、新たな傷の治療法の開発につながる可能性が期待されるとした。