スマートキャンプは1月25日、SaaS(Software as a Service)業界のトレンドをテーマにしたメディア向け勉強会をハイブリッド形式で開催した。
説明会では、同社が2022年11月に発行した「SaaS業界レポート2022」を基に、国内のSaaS市場規模や業界トレンド、日本と欧米におけるSaaS市場の違いが解説された。
ユーザー、SaaS提供事業者で利用広がる「SaaS for SaaS」
同レポートでは、国内SaaS市場のCAGR(年平均成長率)は12.5%で拡大し、2021年に約9300億円だった市場規模が2026年には約1.7兆円に到達するとしている。
また、ソフトウェア市場におけるSaaSの比率も拡大し、2021年に50%超だったのが、2026年には約68%にまで上昇すると見なす。
スマートキャンプ 取締役執行役員COOの阿部慎平氏は、「背景には、国内で提供されるSaaSの数が増えてきていることに加えて、国内SaaS企業における上場の増加もある。上場した企業の多くは成長率30~40%を目標にして事業を展開しており、マーケティング投資にも積極的だ。市場をけん引している企業が増えたことの影響は大きい」と分析した。
今後のSaaS市場の動向については、資金調達が依然として活発に行われており、国内SaaS企業のARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)成長率が前年同期比で20%以上の成長率を維持できていることから、阿部氏は「SaaSの市場規模は拡大していく」と述べた。
スマートキャンプでは、SaaSをカテゴリーごとに区分けしたカオスマップを2017年から公開している。2022年版のカオスマップには950件以上のサービスが掲載され、SaaS市場における3つのトレンドが読み取れるという。
1つ目は「法改正対応」だ。2023年10月からインボイス制度が開始されることになり、政府からデジタルインボイスの標準仕様が公開されたことで、SaaSベンダーも対応準備を進めている。また、デジタル改革関連法などにより、不動産業界でのデジタルサービスの利用検討が活発になり、SaaS市場でも不動産業界向けの電子契約に特化したサービスへの参入が相次いでいるそうだ。
2つ目は「ノーコード/ローコード」だ。現場に適応したシステムが開発できることや、価格を抑えた開発が可能なことからノーコード/ローコード開発プラットフォームの利用が拡大しており、引き続き市場の成長が見込まれる。
3つ目は「SaaS for SaaS」だ。SaaS for SaaSとは、組織内で利用する複数のSaaSを効率的に活用するためのSaaSのことで、国内SaaS市場でも年々存在感を増しているという。
SaaS for SaaSには、ユーザー企業向けサービスとSaaS事業者向けサービスがある。ユーザー企業向けにはシャドーITやコスト管理などのサービスのほか、SaaS同士をAPI連携させるiPaaS(Integration Platform as a Service)が登場している。SaaS事業者向けには、自社サービスに決済やCRM(Customer Relationship Management)、通話、プライシングなどの機能を追加する基盤が提供されている。
このほか、SaaSの選定・導入の効率化の領域にもスマートキャンプは注目している。具体的なソリューションとしては、SaaSのマーケットプレイスが挙げられ、主なサービスにはMicrosoft Azure MarketplaceやSalesforce App Exchangeなどがある。
阿部氏は、「米国ではSaaSをクラウドで購入できるプラットフォームが広く利用され始めている。今後は日本のSaaS企業も、自社のサービスにひもづけて他のサービスを購入できて、情報連携も可能なマーケットプレイスの構築に取り組むだろう」と予想した。
SaaSの導入、「じっくり検討」の日本と「とりあえず試す」欧米
説明会では、日本と欧米におけるSaaS市場の違いをテーマに、阿部氏とマネーフォワードi 代表取締役社長の今井義人氏によるトークセッションが開かれた。
今井氏は、「提供されているSaaSの数や、1社あたりのSaaSの導入数が日本に比べて多いため、日本よりもSaaSの市場規模が大きい」と述べた。
SaaS業界レポート2022では、グローバルで1社あたり平均89個のSaaSが利用されており、大企業(従業員2000人以上)は平均187個のSaaSを利用すると指摘している。
SaaSに求める機能については、欧米では対象とする業務範囲は狭くし、人によるオペレーションが介在しないほどの効率化・自動化を求めるニーズが高い。他方でSaaSに対するセキュリティ意識は高く、セキュリティの国際認証であるSOC2(Service Organization Control Type 2)を取得していない企業のサービスは導入検討しないという。
「日本と比べて、欧米の企業はデジタル活用の意識が高く、すべての地域、どの産業でもSaaSが採用されているのか?」という阿部氏の質問に対して、今井氏は「日本も欧米もアーリーアダプターがSaaSを利用している状況は同じだ。レガシーな産業ではMicrosoft製品しか利用していないケースも珍しくない」と答えた。
その一方で、IT企業でない会社でも社内エンジニアなどのIT人材を確保し、基幹システムや特定の自社で利用するITサービスの運用を専門とするチームがいることも珍しくないという。
また、日本ではさまざまなステークホルダーを対象にしてSaaS導入を進めるため、検討に時間をかけたうえで複数人の稟議を通すケースが多い。欧米では現場のマネージャクラスが決済権限を有しており、「とりあえず試す」といった手軽さでSaaS導入が進むそうだ。
「欧米の企業と面談を行う中で、事業部が積極的にSaaSを導入してしまうのは仕方がないという共通意識が組織内にあると感じる。だが、事業部門の現場レベルでのSaaS導入が常態化している中で、現在、ITを統括する部門ではSaaSをどのように管理するかが課題になってきている」と今井氏は明かした。