三菱重工業(MHI)は2023年1月26日、政府の情報収集衛星「レーダー7号機」を搭載したH-IIAロケット46号機の打ち上げに成功した。

H-IIAの打ち上げ成功率は約97.8%の高い水準を維持。2月には後継機「H3」ロケットの初打ち上げが控える。

レーダー7号機は従来に比べ、画質、俊敏性、即時性といった性能が向上。また、地球上のあらゆる地点を1日1回以上撮像するための衛星4機体制の維持がより強固なものになるとともに、将来の10機体制の確立に向けはずみがついた。

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    情報収集衛星レーダー7号機を搭載したH-IIAロケット46号機の打ち上げ (C) nvs-live.com

H-IIAロケット46号機の打ち上げ

H-IIAロケット46号機は1月26日10時50分21秒、種子島宇宙センターの大型ロケット発射場から離昇した。

情報収集衛星の打ち上げであったため、飛行の詳細は明らかにされなかったが、離昇から約18分後に衛星を分離したことが発表されている(あくまで発表された時間であり、実際の分離時刻については不明)。

また、打ち上げから約2時間後には、「ロケットが計画どおり飛行し、衛星を所定の軌道に投入したことを確認した」と発表された。

投入された軌道についても明らかにされていないが、過去の打ち上げなどを踏まえると、高度約500km、軌道傾斜角97~8度の太陽同期軌道に投入されたものとみられる。

今回の打ち上げ成功で、H-IIAの打ち上げ成功率は約97.8%の高い水準を維持。また7号機以降、40機連続での成功となった。

今回の打ち上げに関して、三菱重工でH-IIA打上執行責任者を務める徳永建(とくなが・たつる)氏は「打ち上げ作業を通して大きなトラブルはなかった。設備などに小さなトラブルがいくつかあったが、今後原因を突き止めながら進めていきたい」と語った。

なお、打ち上げ時刻が直前になって約1分延期されたことについて、打ち上げの安全監理を担当する宇宙航空研究開発機構(JAXA)によると、「打ち上げまで約6分に迫ったあたりで、上空警戒区域内にヘリコプターが侵入し、その安全確認に時間を要したため、打ち上げ時刻の変更を三菱重工に依頼した」と経緯を説明。侵入したヘリコプターについてなど、「詳細については今後確認する」としている。

また、打ち上げ準備中には日本全体を強い寒波が襲い、種子島でも降雪がみられるほどだったが、三菱重工 防衛・宇宙セグメント長の阿部直彦(あべ・なおひこ)氏によると、「25日夜に行った機体移動の際には風が強かったものの、打ち上げへの影響はなかった」という。

阿部氏はまた、昨年10月に小型ロケット「イプシロン」が打ち上げに失敗し、欧州でも12月に主力ロケットの1つ「ヴェガC」が打ち上げに失敗するなど、プレッシャーのかかる中での打ち上げとなったことについて、「イプシロンの失敗原因として推定されるものと同じ部品はH-IIAには使っていないことを確認し、打ち上げに臨んだ。国内外で打ち上げ失敗が相次いだことで、いま一度気を引き締めて準備を進めた。スタッフのがんばりもあって成功することができた」と語った。

H-IIAは今後、50号機までで運用を終える計画で、残りは4機となった。またこの2月13日には、H-IIAの後継機となるH3ロケットの試験機1号機の打ち上げが控える。H-IIAの終わりに向けた運用とH3の試験飛行、そして世代交代に向けて、2023年は試練の年となる。

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    情報収集衛星レーダー7号機を搭載したH-IIAロケット46号機の打ち上げ (C) nvs-live.com

情報収集衛星「レーダー7号機」とは?

情報収集衛星は内閣衛星情報センターが運用する衛星で、日本の安全の確保、大規模災害への対応、その他の内閣の重要政策に関する画像情報の収集を目的としている。その目的から「事実上の偵察衛星」とも呼ばれる。

1998年の北朝鮮によるミサイル「テポドン」の発射を受けて導入が決定され、2001年に内閣衛星情報センターが設立。2003年から衛星の打ち上げが始まった。

情報収集衛星は、「光学衛星」と「レーダー衛星」の大きく2種類から構成されている。光学衛星は、光学カメラ(高性能なデジタルカメラ)を使って地表を撮影する衛星で、地表を細かく見られるものの、夜間や雲があるときには使えない。一方レーダー衛星は、合成開口レーダーを使って撮影する衛星で、あまり細かいものを見ることはできないが、夜間や雲があっても見通すことができる。

現在の方針では、光学衛星とレーダー衛星それぞれ2機ずつの計4機体制で運用することになっている。これにより、地球上のあらゆる地点を1日1回以上撮影することができる。

2023年1月時点で、光学衛星は3機、レーダー衛星は5機が運用されている。なお、4機よりも多いのは、設計寿命を超えて稼動している衛星があるためである。

また2020年には、情報収集衛星が撮影した画像が地上に届くまでにかかる時間を短縮し、即時性を向上させるため、情報収集衛星と地上局の間で通信を中継するための「データ中継衛星1号機」も打ち上げられている。

今回打ち上げられた「レーダー7号機」は、2017年に打ち上げられたレーダー5号機の後継機として開発された。内閣衛星情報センターによると、従来のレーダー衛星に比べ、「総合的な画質(分解能)の向上」、「衛星の姿勢変更などの俊敏性(アジリティ)の向上」を図っているという。また、レーダー衛星としては初めて、データ中継衛星1号機との通信の中継に対応した機器を搭載し、画像取得の即時性の向上も図っている(光学衛星には2020年打ち上げの『光学7号機』で搭載済み)。

衛星の製造は三菱電機が担当した。衛星の姿かたち、質量などは非公表となっているが、設計寿命のみ5年であることが明らかにされている。

なお、政府は宇宙基本計画において、2028年度以降をめどに、基幹となる光学衛星、レーダー衛星各2機に加え、基幹衛星とは異なる時間帯で地表を観測できる「時間軸多様化衛星」を計4機、さらにデータ中継衛星も2機備えた、計10機体制への拡充を計画している。

内閣衛星情報センターは10機体制の必要性について、「ロシアによるウクライナ侵攻、北朝鮮の度重なるミサイル発射、台湾有事の可能性など、我が国をめぐる安全保障環境が厳しさを増しており、情報収集衛星の更なる活用が急務」と説明する。

また、「機数増や新たな軌道の活用など、将来体制について不断の検討が必要」とし、さらに民間の宇宙ビジネスの進展にあわせ、情報収集衛星のみによる情報収集にこだわらず、「複数の国内外企業による多頻度小型衛星の活用も検討する」としている。

  • 打ち上げを待つH-IIAロケット46号機

    打ち上げを待つH-IIAロケット46号機 (C) nvs-live.com