2022年8月23日に、早稲田大学(早大)は「早稲田大学ベンチャーズ(WUV、東京都新宿区)がWUV1号ファンドを設けて、大学などの研究開発シーズを基にしたスタートアップ(ベンチャー企業)を育成する投資活動を始める」という内容の広報文を公表した。
そして「同社は大学などの研究開発成果に基づく“ディープテック領域”を事業化するベンチャー企業を創業させるベンチャーキャピタル(VC)として活動していく」と続けて説明していた。
さらに、早大の田中愛治総長のコメントとして「『世界で輝くWASEDA』を実現するためには、早大での研究成果や早大の優れた人材から世界に大きなインパクトを与えるイノベーションを実現する大学発ベンチャー企業を数多く産み出すことが必要との考えから、早稲田大学ベンチャーズは設立されました」と、早稲田大ベンチャーズの使命などを強調し、創業する意味合いを学内・学外に伝えた。
同時に、早大(あるいは日本)が目指す未来像なども伝えている。それは早大は「2032年に迎える創立150年に向けてのビジョンとして策定したWASEDA VISION 150の枠組みを継承しつつ、2032年を超えて2050年までに日本と世界の変化を見据えたWASEDA VISION 150 AND BEYONDを掲げています」と伝え、その一環として「社会貢献の1つとして、早大発ベンチャー企業による新規事業を通して、豊かな社会をつくる計画を進めている」と続けている。早大の学内と同時に、学外へも早大発ベンチャー企業が果たすイノベーション創出の役割を公言した形になったといえる。
早大はまず2022年1月時点に「早稲田大学ベンチャーズを4月に創業させる」と公言し、その早稲田大学ベンチャーズを率いる共同代表者の予定者の1人として、東京大学VC(ベンチャーキャピタル)である「東京大学エッジキャピタル」(UTEC、東京都文京区 注1)の取締役・パートナーだった山本哲也氏(図1)が「早大総長室の参与(イノベーション戦略)に就任し、創業計画を練っている」ことを公表した。
注1:東京大学系の第一号VCである東京大学エッジキャピタル(UTEC、東京都文京区)は、2004年4月に中間法人東京大学産学連携支援基金によって設立され、VCとして創業し活動を始めた。その後、2018年5月に東京大学エッジキャピタルパートナーズと覚書を締結し、2018年7月に東京大学エッジキャピタルパートナーズへ資本参加、2020年6月に東京大学エッジキャピタルが解散し、東京大学エッジキャピタルパートナーズへと一本化され、さらに2021年2月に東京大学は東京大学産学連携支援基金より東京大学エッジキャピタルパートナーズ株式の寄附を受領し、現在に至っている
さらに、山本参与(イノベーション戦略)は共同代表者の予定者として、自分が東京大学エッジキャピタルの取締役・パートナーだった時に、初期投資して成長を続けていたACSL(東京都江戸川区、旧社名は自律制御システム研究所)の代表取締役社長・CEOを経て2016年時点では取締役会長を務めていた太田裕朗氏を早大総長室に招いて、同じように早大総長室の参与(イノベーション戦略)に就任させて、創業の準備を進めてきた。
山本氏は英オックスフォード大学の理学部物理学科卒、さらにオックスフォード大学経営大学院で学んだ理系・文系に基盤を持つ泰斗として、ベンチャーキャピタリストとしての実績を上げてきた。そして、自分がベンチャーキャピタルとして投資したACSLの事業を順調に育てた太田氏を招いて、新しいVC創業の準備を進めた。
太田氏は京都大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻で助教として研究を始め、その後に2010年からコンサルタント企業大手のマッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務し、2016年からベンチャー企業のACSLの創業に参画し、同社を東証マザーズ上場させるなどの成長時に腕を振るった人物である。
2022年4月に資本金1000万円で設立された早稲田大学ベンチャーズは、早稲田大の“尖った”研究開発成果を基にした事業化を図るベンチャー企業を創業させる2社に投資した。
日本の私立大学系ベンチャーキャピタルとしては、慶応大学系の「慶應イノベーション・イニシアティブ」(東京都港区)が2015年12月17日に創業し、順調にベンチャー企業を創業させ続けている。
国立大学系ベンチャーキャピタルに加えて、私立大学系ベンチャーキャピタルも活発に大学発ベンチャー企業などを創業・育成することによって、日本でも大学発ベンチャー企業によるイノベーション創出が高まる時代を迎えつつあるといえそうだ。