大阪大学(阪大)は12月19日、高速度(高電流密度)で二酸化炭素(CO2)から多炭素有機化合物を合成することに成功したと発表した。
同成果は、阪大大学院 基礎工学研究科の井上明哲大学院生、同・大学 附属太陽エネルギー化学研究センターの中西周次教授、同・神谷和秀准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英国王立化学会が刊行するエネルギーと環境触媒作用に関する分野を扱う学術誌「EES Catalysis」に掲載された。
CO2の再資源化技術のうち、電気化学的手法は、常温・常圧のプロセスであることから原理的にエネルギー変換効率が高い点が優れた点となっているほか、熱エネルギーを用いた反応系と比較して小型化できることから、小規模分散型の技術として期待されている。
同手法の実用化には駆動電圧の低減などと並び、電流密度を向上させることが求められている。しかし、これまではCO2変換反応場である電極(三相界面)の設計指針が確立されておらず、その電流密度はほとんどの場合0.5A/cm2程度にとどまっていたという。
そうした中、これまで、エチレンやエタノール、プロパノールなど、炭素-炭素結合を有する多炭素有機化合物を合成できる電極触媒材料として、広く研究されてきたのが銅だという。そして近年になって研究が活発化しているのが、銅ナノ粒子をガス拡散電極に担持することによる反応高速化の試みであるという。このガス拡散電極は、反応基質をガス状のまま反応界面へと供給するために設計された多孔性炭素電極だという。
ガス拡散電極によるCO2還元反応は、CO2(気体)/電解液(液体)/触媒(固体)で構成される三相界面において進行する。しかし、CO2還元反応における三相界面はその構造の複雑さに起因し、高速化の観点からの設計指針が十分に確立されていないことが課題となっていた。
そこで研究チームは今回、三相界面の面積を最大化するといった指針に基づき、金属銅ナノ粒子で構成される触媒層の厚みや多孔性を制御することで、高電流密度に適した三相界面を構築することにしたという。
そして、中性電解質中において電流密度1.7A/cm2でCO2から多炭素有機化合物を合成することに成功したほか、より反応が進行しやすいアルカリ電解質を用いた場合には、多炭素有機化合物の合成に関わる電流密度はさらに向上し、1.8A/cm2に達したことが確認されたとする。これらの電流密度は、それぞれの液性の電解質において報告されている中でもっとも高い値だという。
なお、今回の研究成果は、CO2を高速・大量に資源化できる技術として、グリーントランスフォーメーション(GX)実現の一端を担うことが期待されると研究チームでは説明している。また、処理速度が一定の場合は、CO2還元反応に必要な電極や電気化学反応セルのサイズを大きく低減することができるため、導入コストの抑制につながることが期待されるともしており、今後は作動電圧の低減や、耐久性向上に向けた取り組みが必要になるとしている。