日本マイクロソフトは12月12日、教育業界におけるICTの利活用事例を紹介するオンライン記者説明会を開催した。

同社は2020年2月に「GIGAスクール構想」に対応する教育機関向けソリューション「GIGAスクールパッケージ」の提供を開始した。同パッケージでは、GIGAスクール対応端末とともに、GIGAスクール構想に対応した教育プラットフォームとして「Microsoft 365 Education」が提供されている。

説明会の冒頭で、日本マイクロソフト 執行役員 パブリックセクター事業本部 文教営業統括本部 統括本部長の中井陽子氏は、「全国の小中学校にて、教師と生徒のやりとりがデジタルの力で深まる事例が現れている」として、Microsoft 365 Educationで提供される機能やデータ利活用の事例を紹介した。

  • 日本マイクロソフト 執行役員 パブリックセクター事業本部 文教営業統括本部 統括本部長 中井陽子氏

    日本マイクロソフト 執行役員 パブリックセクター事業本部 文教営業統括本部 統括本部長 中井陽子氏

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OneNoteで体育の授業を指導、復習や家族との共有は動画で

岐阜県岐阜市の小中学校では、コロナ禍への対応で早期にiPadでの「Microsoft Teams」の利用を開始し、授業のオンライン化を進めた。現在も日常の授業でTeamsを利用し、教師のWindowsノートPCと児童・生徒のiPad間で学習内容をやり取りしている。

さいたま市立大成中学校では、Teamsの「課題機能」で出欠席や課題の提出状況を記録している。教師と生徒の双方で情報を共有できるため、Teamsが備忘録となっており、蓄積された課題のデータは評価と振り返り学習にも活用される。

東京都立光明学園では、教師から生徒への情報伝達のほか、生徒同士の共同作業時の意見交換にもTeamsが活用されている。また、生徒が病床から遠隔で授業に参加する際は、教師が必要に応じてファイルの共同編集機能やチャット機能を利用して、授業の指導やサポートを行っている。

  • 東京都立光明学園でのMicrosoft Teams活用例

    東京都立光明学園でのMicrosoft Teams活用例

富山県高岡市の中学校では、授業の振り返りや学校生活の記録などに「Microsoft OneNote」を利用し、録音データや写真を張り付けて教師と共有。生徒のデジタルノートに対して、教師はコメントや評価を記入している。

愛媛県松山市立椿小学校では、体育の授業でOneNoteが活用された。説明会では、「側転」の動きを生徒同士で動画撮影し、OneNoteに貼り付けて動きの復習に活用したり、教師からのフィードバックをもらいつつ来年の目標設定を行ったりした事例が紹介された。OneNoteの動画などは、家族に授業の様子を共有する際にも利用されている。

このほか、同校ではオンライン学習におけるコミュニケーション促進に「Microsoft Viva インサイト」を利用して、教師から生徒だけでなく、生徒同士で称賛メッセージを送り合っている。

  • 愛媛県松山市立椿小学校でのMicrosoft OneNote活動例

    愛媛県松山市立椿小学校でのMicrosoft OneNote活動例

教育現場において、ICTの利用を定着化するうえでは、頻繁に利用することがポイントだという。

中井氏は、「利用頻度の効果を実証するデータはまだないが、ICTを活用して探求型学習を進めたことで記憶型学習の成績も上がってきている、といった声があった。ICTの利用が児童・生徒の学びのスピード向上や、個別学習を可能にしていると受け止めている」と語った。

教師によるICT活用を促進する観点から、研修やデジタル授業のためのコンテンツも充実しつつある。しかし、それでもICT活用が進まないケースはあるものだ。

研修、コンテンツと併せて重要になるのが、教師がICTを利用しやすくなる環境や仕組みの整備だ。ICTをうまく活用している自治体では、現場の教師任せにせず、学校長や教育委員会などが、現場の課題解決に着手したり、負担を軽減する仕組みを作ったりするほか、ICT活用を称賛・評価するような取り組みなどを進めているそうだ。

学校全体、クラス、個人の状況をデータで可視化するダッシュボード

GIGAスクール構想ではデジタルツールや機能の活用が注目されたが、教育現場ではデータ利活用が進みつつある。

Microsoft 365 EducationではTeamsやOneNoteのほか、AIを活用した音読練習機能「Reading Progress」や生徒から感情のアンケートを取れる「Reflect」といった教育現場向けの機能も提供している。

さまざまな機能からは、生徒の学習ログや活動履歴などのデータが自動収集されている。データから得られたインサイトは、Teams標準機能の「Education Insights」や、組織全体のデータ分析が可能な「Education Insights Premium」(有償)で分析し、指導やケアに活用できる。

例えば、課題に取り組んでいる時間帯や音読練習で読み間違いが発生している箇所、生徒の気持ちに関するアンケート結果に基づいて、個別サポートが必要な生徒を発見することが可能だ。

「Reflectでは個人だけでなくクラス全体の感情の揺らぎをデータで可視化できる。『自信がある』『感謝』といった気持ちを表している生徒がいる一方で、『不安』や『痛み』をアンケートで提出した生徒に対して丁寧な声掛けを行うなど、生徒に寄り添った個別指導や円滑な学級運営を図れる」(中井氏)

  • 「Reflect」の利用イメージ

    「Reflect」の利用イメージ

Microsoft 365 Educationは他の学習系システムや校務系システムと連携し、さまざまなデータを組み合わせて利用することもできる。

つくば市教育委員会では「Microsoft Power BI」を利用して、MEXCBT(文部科学省CBTシステム)などと連携した「教育ダッシュボード」の構築を進めており、現在、5つの学校でテスト運用を開始している。

  • Microsoft 365 Educationと他のシステムを連携しデータの利活用が可能だ

    Microsoft 365 Educationと他システムを連携しデータの利活用が可能だ

説明会では、教育データの利活用をスタートした自治体として渋谷区教育委員会の事例が紹介された。渋谷区教育委員会では学校全体、クラス、個人の状況をデータに基づいて客観的に分析可能なダッシュボードを構築している。

データ設計ではメダリオンアーキテクチャを採用しており、ローデータを収集しつつ、教師がダッシュボード上で閲覧するデータは成形されたデータとなっている。また、時代や子供たち変化にも対応したデータ活用ができるよう、データの取り込みや分析を内製化している。

  • 渋谷教育委員会が構築したデータ利活用基盤の構成図

    渋谷教育委員会が構築したデータ利活用基盤の構成図

日本マイクロソフト DX推進室長の阪口福太郎氏は、「渋谷区教育委員会のダッシュボードの特筆すべき点は、PaaS(Platform as a Service)とSaaS(Software as a Service)中心にデータ利活用基盤の構築を進めていることにある。今後のバージョンアップやバックアップが最小限のコストで行えるだけでなく、5~10年後にシステムの作り直しが発生しない構成となっている」と解説した。

  • 日本マイクロソフト DX推進室長 阪口福太郎氏

    日本マイクロソフト DX推進室長 阪口福太郎氏

データ利活用ではセキュリティの担保が必須となる。この点、日本マイクロソフトでは複数のパートナー企業と連携し、認証基盤、シングルサインオン連携、データの受け渡し、データ分析基盤、データ可視化、システム全体の監視までをカバーするセキュリティ機能をパッケージ化して提供している。

日本マイクロソフト 教育ICTソリューションスペシャリストの山越梨沙子氏は、「本日時点で、業界を代表する28のソリューションとシングルサインオン連携が可能だ。校務系・学習系を統合しクラウド化するための必要機能はMicrosoft 365 A5で提供しており、Microsoft AzureやPower BIでデータ活用基盤を構築している。現在、各ソリューションのSIパートナーとの連携を強化している」と述べた。

  • 日本マイクロソフト 教育ICTソリューションスペシャリスト 山越梨沙子氏

    日本マイクロソフト 教育ICTソリューションスペシャリスト 山越梨沙子氏

今後も日本マイクロソフトは、Microsoft 365 Educationのアカウントとのシングルサインオン連携、校務支援システムや学習アプリケーションなどとの連携、教育ダッシュボード構築、セキュリティを担保したICT基盤整備などに注力する方針だ。