1918年の創業以来、「社会生活の改善と向上」と「世界文化の進展」に向けて事業に取り組んできたパナソニックグループ。ブランドスローガン「幸せの、チカラに。」には、変化する世界の中でも、人々の幸せを生みだす「チカラ」であり続けたいという熱い想いが込められている。これを実現するために注力するのが、グループ独自のDX「PX(Panasonic Transformation)」だ。

11月10日、11日に開催された「TECH+ EXPO 2022 Winter for データ活用 戦略的な意思決定を導く」では、パナソニック ホールディングス執行役員 グループ・チーフ・インフォメーション・オフィサー(グループCIO)であり、パナソニック インフォメーションシステムズ 代表取締役社長も務める玉置肇氏が、「パナソニック トランスフォーメーション(PX) ~企業と事業を変革するデジタル戦略~」と題した講演を実施。PXの方針や具体的な取り組みなどを解説した。

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独自のDXによる現場革新

パナソニックグループは2022年4月から、パナソニック ホールディングスの傘下に8つの事業会社を有する持ち株会社制となった。これは、各事業会社が独立した法人として社会や顧客と向き合い、自主責任経営の徹底および競争力強化の加速を図るためだ。そしてパナソニックグループでは、「地球環境問題の解決への貢献」および「心身ともに健康で幸せな状態を“くらし”と“しごと”において実現」という観点から、「物と心が共に豊かな理想の社会」を目指している。「これを実現するためにも、競争力強化として“戦略”と“オペレーション力”が必要不可欠になる」と玉置氏は言う。中長期戦略にも、「一人ひとりが活きる経営」「オペレーション力の徹底強化」の中核を担う存在として、同社独自のDXである「PX(Panasonic Transformation)」による現場革新が盛り込まれている。

  • パナソニックグループの新体制

PXについて紹介する前に、玉置氏は日本企業がデジタル化で苦戦した理由について言及した。

「例えば、TVがまだブラウン管を使用していた頃は、部品や組付け技術にも優劣があり、各社がしのぎを削っていました。しかし、LSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)の登場が完全にTV業界を変えてしまったのです」(玉置氏)

LSIによって部品の多くがプリント基板上へと移行し、これが部品・部材のモジュール化を強烈に促進した。現在のTVを構成するパーツは大きく筐体/パネル/マザーボードの3つに分けられるが、このうちパネルとマザーボードはメーカーを問わず共通であることが多くなった。このようなデジタル化によって部品のモジュール化が進むと、いかに安く作れるかという“規模の経済”が効いてくる。そこで日本企業が苦戦を強いられたのだ。

またデジタルカメラについては、一般消費者では見分けがつかないほど高性能なカメラ機能がスマートフォンに搭載されたことで、撮影も普段持ち歩くスマートフォン1台で済んでしまうという事態になった。こちらは技術の革新・発展が、消費者の行動を変えてしまった例と言える。さらに、かつて日本企業が多くのシェアを占めていた携帯電話についても、iPhoneが1つのプラットフォームになったことで敗北を喫してしまったという。

つまり勝負を決めたのは、モジュール化が“規模の経済”が効いてくる世の中を作り、ハイパースケーラーが台頭したことだと玉置氏は説明する。そして技術革新が消費者の行動に変化を及ぼし、さまざまな要素を包含した製品を提供できるプラットフォーマーが市場を席巻するようになった。これにより、日本経済はかなりのダメージを受けたのだ。

“重いレガシー”を解き放つことが必要

玉置氏は現在の日本企業に必要なものについて、本題に入る前に「皆さんはデータドリブンとして、過去の実績や販売、決算などのデータを一生懸命に分析して経営しようとしていませんか」と聴講者に投げかけた。

同氏は「自動車を運転する際は必ず前を見るが、過去のデータ分析に固執するのはバックミラーを見ながら運転しているのと同じ」と例を挙げ、現在の日本企業に必要なのは、今あるデータからしっかりと将来を予測することだと力を込める。そして時には、現在足元にあるものを捨ててでも、「将来に向けて経営の舵を取ることが求められているのではないでしょうか」と問いかけた。

現在、日本企業の多くは組織/マインド/プロセス/システムなどの“重いレガシー”を抱えており、これらを安易に捨てることはできないだろう。しかし、これらをなんとか解き放たなければ、予測主体の新しい経営へ移行することは難しい。

「DXと言えば、システムとプロセスの中間に手を入れるものが多いでしょう。もちろんここも必要なのですが、一番変えなければいけないのは組織とマインドです。この2つを変えなければ、プロセスとシステムを変えてもダメなのです」(玉置氏)