そこで研究チームは今回、推進機下流域におけるイオンの定常的な速度ベクトル、および誘起されるプラズマ不安定性の計測を実施することにしたという。そのイオン速度ベクトルの空間分布計測が行われ、その結果と磁力線の比較が行われた。すると、イオン速度の空間発散角が磁力線の発散角よりも小さく、イオンが磁気ノズルから離脱していることが示された。

  • (左)実験装置概略図。(右)イオンの速度ベクトル計測結果(青矢印)、イオン速度計測結果(カラースケール)、および磁力線構造。加速されたイオン速度ベクトルの空間発散角が磁力線よりも小さいことから、イオンが磁気ノズルから離脱していることが示されている

    (左)実験装置概略図。(右)イオンの速度ベクトル計測結果(青矢印)、イオン速度計測結果(カラースケール)、および磁力線構造。加速されたイオン速度ベクトルの空間発散角が磁力線よりも小さいことから、イオンが磁気ノズルから離脱していることが示されている(出所:共同プレスリリースPDF)

電子の離脱に関しては、自発的に誘起されるプラズマ不安定性が駆動する粒子流束の評価が実施された。典型的な密度変動および速度変動の周波数スペクトルが調べられたところ、約40kHz近傍に大振幅の変動が存在していることが観測されたという。

次にその変動成分の空間分布の評価が行われた。すると、磁気ノズル中を膨張するプラズマ流の周辺領域に、不安定性が局在していることが確認されたとする。これらの密度・速度変動の非線形効果に起因する電子流束の評価の結果と、流束の方向によるグラフ化を行ったところ、40kHz帯の不安定性によって内向きの電子輸送が駆動していることが見出された。この結果は、この内向き電子輸送によって離脱したイオンを電気的に中和していることを示唆するものだという。

また定量的な計測がなされた結果、離脱したイオンの数十%程度の流束に相当していることが示された。つまり、今回観測された不安定性は、プラズマ流が磁気ノズルから離脱する過程において、重要な役割を果たしていることがわかったのである。

プラズマ不安定性や乱流現象は、将来のエネルギー源として期待される核融合プラズマにおいて、磁場の閉ループ構造による性能の低下を引き起こすため、その理解と抑制が大きな研究課題となっている。その一方で今回の発表では、ヘリコンスラスタにおいて、プラズマ不安定性が同推進機の宇宙空間作動にポジティブな効果をもたらしうることが示唆された。この研究成果は、プラズマ波動研究の応用開拓と新展開に寄与するものと期待されるとした。