三菱電機は、サーマルダイオード赤外線センサー「MelDIR(メルダー)」の新製品として、200℃までの温度測定が可能な「MIR8060B3」のサンプル提供を、2023年2月1日から開始する。

  • 「MIR8060B3」

    200℃までの温度測定が可能なサーマルダイオード赤外線センサー「MelDIR(メルダー)」の新製品「MIR8060B3」

信号処理とレンズの最適化によって、従来製品では検知できなかった60℃以上から200℃までの温度を測定できるため、高温となる調理中の具材や調理器具、工場設備などの温度分布測定が可能になり、発火予防などの安心、安全な調理空間の実現に貢献するほか、設備の異常検知などの工場オペレーションの最適化、安全性の改善などへの応用が可能になる。

三菱電機 高周波光デバイス製作所 赤外線センサデバイスプロジェクトグループ プロジェクトマネージャーの太田彰氏は、「熱いものを検知するだけでなく、どれぐらいの温度になっているのかといったことも検知できる。たとえば、部屋のなかのアイロンの熱が200℃に達していることを検知して、温度を表示できる。

  • 発熱したアイロンに人が近づくとアラームを鳴らすデモストレーション

    発熱したアイロンに人が近づくとアラームを鳴らすデモストレーション

また、キッチンでは、コンロ上にあるフライパン、具材、油などの全体の温度分布を測定して表示。工場内の高温整備の監視では、広範囲で温度分布を測定し、異常が発生していないかを確認できる」という。MIR8060B3は、80×60画素のサーマルダイオード赤外線センサーで、モジュールサイズは19.5mm×13.5mm×9.5mm。温度分解能は400mK。フレームレートは4fpsと8fpsの選択が可能となっている。

  • 太田彰氏

    三菱電機 高周波光デバイス製作所 赤外線センサデバイスプロジェクトグループ プロジェクトマネージャーの太田彰氏

同センサーの具体的な応用事例として、キッチンでは、調理前のフライパンの温度、具材追加前の具材温度分布、調理完了前の温度分布をそれぞれ検知することで、調理のタイミングの最適化が可能になるほか、具材をゆでている際には、温度上昇による吹きこぼれを防止したり、揚げ物の際には、油の温度上昇による発火、発煙を防止できたりする。また、工場では、装置の異常発熱箇所を検知して、発熱箇所に人が近づくとアラームが鳴るようにすることで、工場の設備管理や安全確保ができる。

夏場に温度上昇が激しい車室内の状況を検知したり、オフィスの温度分布状況を人の数とともに把握したり、畜産では外気温と動物の状態を検知するといった用途での活用も想定される。

三菱電機 半導体・デバイス事業本部 半導体・デバイス第二事業部長の盛田淳氏は、「MelDIRは、人工衛星の『だいち2号』に搭載した地球観測用小型赤外カメラに用いた独自技術を、民生分野に活用した製品であり、高画素化、高分解能化の実現により、詳細な熱画像の取得、人やモノの識別、人の行動の高精度把握を可能にしている」と説明する。

  • 盛田淳氏

    三菱電機 半導体・デバイス事業本部 半導体・デバイス第二事業部長の盛田淳氏

2019年11月に発売して以来、三菱電機のルームエアコン「霧ヶ峰」のムーブアイ mirA.Iへの採用のほか、三菱電機のAI技術である「Maisart(マイサート)」を活用した映像解析ソリューション「kizkia Knight」との連携、高齢者向けヘルステック事業「MelCare」センサーへの搭載などのほか、国内を中心にした高齢者施設での見守りや防犯、人数カウントソリューション、体表面温度測定など、ニーズの広がりにあわせて活用範囲を拡大。年間数億円規模の事業に成長しているという。

  • MelDIRの採用実績

    MelDIRの採用実績

三菱電機の太田プロジェクトマネージャーは、「サーマルセンサーは、温度情報を電気信号に変換する装置で、サーミスタにより温度変化を測る接触型と、赤外線を受光し、電気信号に変換する赤外線センサーによる非接触型がある。なかでも、赤外線センサーは、離れた場所から、人の額の温度を測定して体温を測ったり、暗視ができたりするほか、外乱校や散乱の影響を受けないため、逆光や煙が充満した状態でも人を認識できる。空調機器では部屋の温度を測って、最適な温度に維持することが可能になる」という。

かつては、単眼や低画素数(数100画素)のセンサーに限られていたため、熱情報から状況を人の様子などを判断していたが、サーマルダイオードを利用することで、低コストで熱源の識別や行動把握ができるようになり、応用範囲が拡大。サーマルダイオード赤外線センサーの市場規模は、2030年には200億円に達すると予測している。

「赤外線センサーは、熱源の有無や、熱源の動きは検知できるが、熱源が何かを判断できないという課題があった。だが、2019年11月に発売したMelDIRによって、熱源の識別や行動把握が可能になり、熱源が人であることや、人がどんな行動や姿勢をしているのかがわかるようになった。また、2021年7月に発売した製品では、広い範囲で検知したいというニーズに応えて商品化し、見守り範囲の拡大や人数カウントなどの用途にも利用できようになった」という。

2019年11月に発表したMelDIRの第1号製品は、80×32画素で、真空封止チップスケールパッケージ技術により、小型化および省スペース化を実現。2021年7月に発売した第2号製品は、80×60画素で、広画角化、高画素化によって、広範囲の人、モノの識別や、行動把握を高精度に実現。フレームレートの追加と、感度補正の最適化により、動く熱源を高精度に把握できるようになった。また、ユーザーサポートツールの提供により、製品開発期間の短縮にも貢献したという。

「今回の新製品は、より高い温度を検知したいというニーズに応えたものである。これまでの製品で測定可能な温度範囲は、-5℃から+60℃で使用できたが、信号処理とレンズの最適化により、広範囲な温度分布の測定が可能になった。高温になるキッチンや工場設備の温度分布などの把握に対するニーズに応えることができ、高温の対象物を取り扱う際の安全管理や、快適な作業環境づくりを支援できる」と述べた。

  • 「MIR8060B3」の概要

    「MIR8060B3」の概要

また、新製品の発表にあわせて、製品企画や技術開発に生かすことができるユーザーサポートツールを強化。キッチンや工場での設備監視における熱画像例を提供するほか、使いやすい小型のデモキットを提供することで、評価時間の短縮を支援。ハードウェアおよびソフトウェアの開発に必要な情報をリファレンスデザインとして提供する。