東芝は11月16日、機器の稼働音を解析し、劣化の兆候を高精度に捉える音響劣化推定AI「VAE-DE(Variational AutoEncoder-based Deterioration Estimation)」を開発したことを発表した。詳細は、11月13日から18日まで開催された電力設備の診断技術を扱う国際会議「CMD2022(9th International Conference on Condition Monitoring and Diagnosis 2022)」にて発表された。

従来、産業機器や工場設備などは、稼働時間に応じた定期メンテナンスによる故障予防アプローチ(時間基準保全)が基本的に採用されてきた。しかし、定期メンテナンスの場合、不具合が生じていないのに部品を交換したり、定期メンテナンス前に不具合が生じてしまうことがあるなど、課題があり、近年ではセンサとAIを活用して機器の状態をリアルタイムで監視し、悪くなってきた段階で、適宜メンテナンスを行うことで、最適な機器保全を行おうとする状態基準保全のアプローチに注目が集まりつつあるという。

そうした状態基準保全を実現するためのセンサとしては、「音響センサ」、「振動センサ」、「AE(弾性波)センサ」などが考えられているがそれぞれメリット・デメリットがある。東芝では今回の研究では、非接触で安価、そして劣化検知を比較的早く識別できる音響センサに着目。それに対応したAIを開発することにしたという。

  • 状態基準保全の実現に向けた各種センサのメリット・デメリット

    状態基準保全の実現に向けた各種センサのメリット・デメリット (資料提供:東芝)

課題として、劣化音が稼働音に対して微弱であり、かつ徐々に変化するものであり、そこから劣化の度合いを推定する必要があったという点が挙げられるとするが、信号が微弱なため、従来型AIだと、認識精度に問題があったとするほか、外部音や電気的ノイズが音響センサに混入し、正確な推定を難しくすることも課題となっていたという。

  • 音響センサデータによる状態基準保全を実現するための課題
  • 音響センサデータによる状態基準保全を実現するための課題
  • 音響センサデータによる状態基準保全を実現するための課題 (資料提供:東芝)

そこで同社では、ノイズに騙されにくく誤検知を起こしにくいVAEという手法をベースに、正常音と劣化傾向音の特徴を学習しながら、両者の特徴が離れるように学習することで、微弱な劣化傾向を検知できる独自手法「VAE-DE手法」を開発。これにより、対象の機器にノイズが発生した場合、それを見落とさずに、正常範囲からの距離を元に劣化の度合いを算出することで、その程度の劣化具合であるかの判断を可能にしたとする。

  • 「VAE-DE手法」の概要
  • 「VAE-DE手法」の効果
  • 「VAE-DE手法」の概要と、その効果 (資料提供:東芝)

実際に同社が行った実験として、ノイズ有り環境とノイズ無し環境での冷却ファンの劣化傾向を元にシミュレーションを行ったところ、いずれの場合でも劣化が進むほど、劣化推定値も上昇し、劣化を検知できることを確認したほか、従来手法(オートエンコーダ)では、劣化進行に対して、劣化推定値が上昇して誤検知が発生する場合が生じるなど、検知が不安定になることも確認したという。

  • 検証実験による結果

    検証実験による結果 (資料提供:東芝)

なお、同社では今後、今回開発したAI技術を電源設備の冷却ファン向けに早期適用を目指すとしているほか、将来的には、工場やIT設備において長期間連続で稼働する冷却ファン以外の機器などへの展開も目指すともしている。

  • 今後の展望

    今後の展望 (資料提供:東芝)