宇宙航空研究開発機構(JAXA)は10月28日、小惑星帯に軌道を持つ小惑星「シーラ」に2010年12月に起こった天体衝突で表層が新鮮な物質に覆われたことを利用し、実時間で約10年間の宇宙風化作用によるスペクトル変化の観察を行った結果、観測の不確かさの範囲内で、観測されたスペクトルは2010年の衝突イベント直後に観測されたスペクトルと一致、つまり宇宙風化作用による変化は確認されなかったと発表した。
同成果は、JAXA 宇宙科学研究所(ISAS)の長谷川直主任研究開発員を中心に、国立天文台、東京大学、日本スペースガード協会、神戸大学、米・マサチューセッツ工科大学、ヨーロッパ南天天文台、NASAなどの計20名強の研究者が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。
T型小惑星シーラに数十mの小惑星が衝突して表層が一新された結果、近赤外域(0.8~2.5μm)のスペクトルの傾きはさらに赤く変動し、その表層が新鮮になったと考えられた。このことから、シーラの表層で宇宙風化作用が進むと、スペクトルは青くなるということが判明した。また、シーラのような暗い小惑星を起源にしている始原的な隕石に対する、宇宙風化作用に関する室内実験でも同様の結果が得られたとするほか、両者の宇宙風化作用に対するスペクトル変化の傾向は一致しているとする。
2022年現在で、シーラ表層は新鮮な状態となってから宇宙風化作用に10年以上晒されたことになる。そこで研究チームは今回、実際にどのようにスペクトルが変化したのかを観察するため、NASAの「赤外線望遠鏡施設(IRTF)」の3.0m望遠鏡と、国立天文台 石垣島天文台の「1.05mむりかぶし望遠鏡」で、それぞれ近赤外域と可視光域のスペクトル観測。シーラの宇宙風化作用によるスペクトル変化を調べることにしたという。
可視光域の波長では衝突前後においてスペクトルの変化はなかったが、今回もなかったとする。近赤外域の波長においても、同様に変化は確認されなかった。つまり、シーラのようなスペクトルを持つ暗い小惑星では、10年程度では宇宙風化作用によるスペクトル変化は起きないということが判明したこととなり、このことは過去の室内実験による予測の範囲内ではあったという。
実際の小惑星において、曝露時間が正確にわかる条件下で観測的に確認されたのは、今回が初めてのことになるという。また今回の観測結果は、室内実験の正当性は、少なくとも10年程度の時間スケールにおいては示されることが確認されたという。