ある元素をベリリウムに添加して金属間化合物化すると、六方最密構造から別の結晶構造に変わると同時に、電子構造にも大きな変化が生じる。たとえばBe12X(X:前期遷移金属)の場合、遷移金属のd軌道との混成により、ベリリウムの占有pバンド中心は右(高エネルギー側)にシフトする。

さまざまな記述子と空孔生成エネルギーの関係の分析が行われた結果、この占有pバンド中心は、ベリリウムの空孔生成エネルギーと強い相関を持つことが判明したとする。回帰式の当てはまりの良さ示す決定係数R2は0.85だったという。また、軟X線発光分光法により評価された占有pバンド中心は第一原理計算の結果とよく一致しており、同記述子は高い精度で実験的に評価できることが示されたという。

また、Be12Xにおける3種類の水素固溶位置(i1~3サイト)を対象に、これらの記述子と水素の固溶エネルギーとの相関が調べられたところ、占有pバンド中心は水素固溶エネルギーとも相関を持ち、バンド中心が高エネルギー側にシフトするほど、水素の固溶エネルギーが小さくなる傾向が示されたほか、ある程度高エネルギー側にシフトすると、それ以上水素の固溶エネルギーが変化しないことも判明。これは、占有pバンド中心が高エネルギー側にシフトするほど、水素の反結合性軌道への電子充填が減り、水素との結びつきが相対的に強くなることが理由と考えられるとする。

今回の研究では、密度半関数理論に基づく第一原理計算により、軽元素材料の特性と結びつきの強い電子的記述子が解明されたが、同記述子について研究チームでは、データベース上のバルクの結晶構造からただちに計算でき、実験的にも評価可能であるため、材料開発の設計指針として有用であることが考えられるとしている。

なお、ベリリウムは毒性があることから使用施設が限られていることに加え、核融合環境を模擬した実験(例:中性子照射試験)には一定の費用と期間を要する。情報駆動型の材料開発により、目的の物性と資源量のバランスを考えた材料設計を行うことで、核融合用のベリリウム機能材料の開発を加速させられることが期待されるという。また今後の研究では、さまざまな物性と強く関連した記述子の探索を進め、高機能なベリリウム化合物の開発に貢献したいと考えているとしている。

  • 電子的記述子(Be占有pバンド中心)の実験的評価と空孔生成エネルギーとの関係

    電子的記述子(Be占有pバンド中心)の実験的評価と空孔生成エネルギーとの関係 (出所:京大プレスリリースPDF)