京セラは10月5日、低ノイズのミリ波センサを活用することでマイクロメートル単位の振動を非接触かつ高精度に検出・抽出できる「非接触インテリジェントミリ波センシングシステム」を開発したことを発表した。

京セラが開発した非接触インテリジェントミリ波センシングシステムの概要

京セラはこれまで、自動車の衝突検知用途などに向けた77GHz/79GHzミリ波レーダーや、さまざまな用途に対応可能な「マルチファンクション型ミリ波レーダー」などの研究開発を行ってきており、車室内や屋内でも利用可能な60GHzのノウハウも蓄積してきたという。今回の非接触インテリジェントミリ波センシングシステムも、そうしたマルチファンクション型ミリ波レーダーで培われた60GHzを用いた距離や速度検出ノウハウと、世界的な車室内での測定には60GHzが有望視されているという流れを踏まえ、実用化に向けて開発が進められてきたという。

同システムのセンサ方式は、60GHz帯域FCMミリ波方式で、センサ部は外部から調達。試作機のサイズは64.5mm×63.0mm×23.82mm、検知距離は介護が必要な人のバイタルセンシングなどの微細な振動を検知する場合で1.5m程度(将来的にはビーム幅の制御やノイズ除去技術の向上などにより3mまでは伸ばしたいとする)、機械設備などの振動からの予兆検知の場合は3m(振動量・分析内容による)ほどの距離で検知可能だとしている。

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    非接触インテリジェントミリ波センシングシステムの試作機 上部の電極部分が送受信用のアンテナ

また、単に実際に測定を行うIoT端末だけを提供しても、ユーザーが抱える課題(社会課題)の解決にはつながらないということを踏まえ、IoT端末で生成されたデータを集約するエッジ端末、そこから必要なデータを集約して対象の状態を分析するクラウドシステムまでソリューションで提供することを考えているとのことで、それぞれのレイヤやユースケースで必要とされる各種IP(ソフトモジュール)も用意。それらを必要に応じて組み合わせて提供していくことを目指すとする。同社 研究開発本部 先進技術研究所の小林正弘氏は「オールインワンで提供したいと思っているが、IPの提供形態などについては具体的には決まっていない。しかし、開発側の思いとしては、社会問題を解決したいというところにある。社会で多くの人が困っていること、技術的に心拍まで非接触で高精度で測れるということにより解決できるであろう社会課題をしっかりと解決することが目的。その実現のために、必要であればパートナーと組むこともあるが、それは手段であり、我々としては、社会課題の解決を念頭において研究開発を進めてきた」と、技術をニーズに当て込むのではなく、社会課題の解決を自分たちの持つ技術でどうやって解決できるかが重要であることを強調する。

  • それぞれの用途に応じたIPをIoT端末、エッジ端末、そしてクラウドシステムそれぞれに開発

    それぞれの用途に応じたIPをIoT端末、エッジ端末、そしてクラウドシステムそれぞれに開発。ユーザーはやりたいことに応じて、それらを活用することになるようだ

同システムの特長は大きく3つ。同社が長年培ってきた材料技術を活用した銅箔界面接合部の凹凸を抑え、表面粗度と伝送損失を提言したことで、基板設計自由度が増し、結果としてRF回路の共存、低ノイズ、小型化を実現した高精度基板製造技術と、高品質なミリ波信号の送受信を可能とし、小さな心音も抽出可能な、独自の統計的信号処理技術の活用による「非接触」「高精度」「拡張性」だという。

  • 今回活用された技術の概要

    今回活用された技術の概要

  • 銅箔の界面接合部の平坦性を向上させる独自技術を駆使

    銅箔の界面接合部の平坦性を向上させる独自技術を駆使することで伝送損失の低減を実現したという

  • 高時間分解能の心拍間隔推定技術

    もう1つの独自技術。高時間分解能の心拍間隔推定技術

非接触ながら、マイクロメートル単位の振動を検知可能とし、高精度とされるLaser Doppler Vibrometerと比べても同程度の精度を実現したとする。またその精度については、1ms以下の時間分解能による心拍間隔検知を可能としたとするほか、同社の実験環境による確認結果として、心拍間隔((HF帯域含め)の誤差は±10ms以内、心拍変動スペクトルの誤差も±10%以下を実現したという。また、拡張性としては、上述のそうにさまざまな用途に応じた解析や分析のためのIPを用意。これらのIPを必要に応じてアドオンすることで、ユーザーニーズに柔軟に応えることを可能としたとする。

  • 開発されたミリ波センシングシステムの3つの特長

    開発されたミリ波センシングシステムの3つの特長

なお、同社では同システムを2022年10月18日~21日にかけて千葉県の幕張メッセにて開催される「CEATEC 2022」にてデモを披露するとしているほか、今後はそうした場所でのニーズの吸い上げなどをしつつ、パートナー各社との実証実験を進め、早期の社会実装を目指すとしている。具体的には、2023年にはサンプルの出荷を目指したいとしており、主なターゲット市場として、ヘルスケア分野の介護者の心拍や呼吸のセンシングといった見守りや、工場の機器や設備などの予兆検知、自動車の運転時におけるドライバーの体調把握や車室内の置き去り検知などを想定しているという。