東京大学(東大)は、量子磁性体「SrCu2(BO3)2」が強磁場中で示す「磁気的な悪魔の階段」の手前に、スピンの量子的な液晶状態である「スピンネマティック状態」の可能性がある、磁気的に隠れていた、スピンの量子における固体と気体の中間的な状態が存在していることを発見したと発表した。

同成果は、東大 物性研究所 国際超強磁場科学研究施設の今城周作特任助教、同・松山直史大学院生、同・野村肇宏助教、同・金道浩一教授、同・小濱芳允准教授、東北大学 金属材料研究所の木原工助教(現・岡山大准教授)、中村慎太郎助教、仏・CEA-Grenobleのクリストフ・マルセナ教授、同・ティエリー・クライン教授、同・ガブリエル・セイファース准教授、京都大学の鐘承超 大学院生(現・立命館大学 助教)、同・陰山洋教授、理化学研究所の桃井勉専任研究員らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。

二次元量子スピン系の物質であるSrCu2(BO3)2の磁気状態は、強い幾何学的フラストレーションが働くことで、局在したスピンが強磁場領域で多彩な「ウィグナー格子」を形成することが知られているという。そのためSrCu2(BO3)2では、スピンのウィグナー格子間で多段の磁気相転移が起こり、それをグラフ化すると階段状の磁化過程として描かれることから、「磁気的な悪魔の階段」と呼ばれている。

SrCu2(BO3)2において、スピンの固体状態として「磁気的な悪魔の階段」の出現が確認されていたのは、27T以上の強磁場領域であり、27T以下では確認されておらず、これまではスピンが無秩序な気体状態になると信じられていたという。

一方で、一般的な物質では固体と気体の中間状態として液体や液晶相があるように、スピンにも固体と気体の間にも中間的な状態があるのではないかと推測されてきた。しかし、これまでの磁気的測定では、SrCu2(BO3)2の中間相は確認されていなかったとする。

そこで研究チームは今回、物性研の43Tパルスマグネット、東北大金研の28Tハイブリッドマグネット、フランスLNCMI-Grenobleの35T常伝導マグネットという、複数の世界的強磁場施設の先端的磁場発生技術を結集し、精密な熱測定に挑んだという。