日本マイクロソフトは9月29日、政府・自治体のDX(デジタルトランスフォーメーション)における最新の取り組みを説明するオンライン記者説明会を開催した。

同社は主に、デジタル・ガバメント、文教、医療・製薬の3つの領域においてパブリックセクター事業を展開している。説明会では、日本における政府・地方公共団体向けに同社が実施している組織改革や人材育成の支援事例が紹介された。

  • パブリックセクター事業における活動例

    パブリックセクター事業における活動例

デジタル化やクラウド移行、データ基盤整備に注力

説明会の冒頭で、同事業を統括する常務執行役員 パブリックセクター事業本部長の佐藤亮太氏は、「現状とあるべき姿を橋渡しする『かけはし』となるべく事業を推進している。最先端のテクノロジーを安心して利用できるよう多様な領域に投資していることに加え、幅広いポートフォリオを有する当社だからこそ、課題や変革のステージに合わせた提案ができると考える。また、当社もこれまで事業戦略、事業方針、投資領域などを変え、事業変革を行ってきた。そうした取り組みの成功体験、失敗体験も還元し、公共領域のお客さまのDXを支援したい」と意気込んだ。

  • 日本マイクロソフト 常務執行役員 パブリックセクター事業本部長 佐藤亮太氏

    日本マイクロソフト 常務執行役員 パブリックセクター事業本部長 佐藤亮太氏

デジタル・ガバメント領域において日本マイクロソフトは、2018年から本格的に事業をスタートし、「オンラインでの行政へのアクセス」「縦割り行政の打破のためのコラボレーション」「信頼されセキュアな環境の提供」を注力分野とする。

具体的には、Microsoft 365、Microsoft Dynamics 365、Microsoft Power Platform、Microsoft Azureなどのソリューションを活用して業務のデジタル化やクラウド移行、データ利活用のための基盤整備、ISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)対応などを支援している。

DXの推進役となる組織と人材の課題解決を包括支援

組織改革・人材育成の支援では、DXで目指すビジョン・全体方針の策定や計画の工程表の作成、デジタル人材の確保・育成、開発内製化、手続きのオンライン化・ワンストップ化などを実施している。

例えば、農林水産省とは、デジタルワークプレイスの整備を目的にMicrosoft Teamsの導入・活用に向けた取り組みを進める。同省では「Teams使い倒しプロジェクト」を4月に発足し、日本マイクロソフトが研修を実施している。2022年9月上旬には、本省の幹部職員向けに、Web会議の設定やチャット操作、共同編集機能など実際の業務を想定した集合研修を行った。

従来、農林水産省では資料の作成・照会にあたり、各課にファイルを送付して取りまとめるというプロセスが慣例的に行われており作業効率が悪かった。だが、Microsoft Teamsの共同編集機能を活用することで作業時間を約7割削減できたという。

  • 農林水産省のワークスタイルの変化

    農林水産省のワークスタイルの変化

防衛省との取り組みでは自衛隊のICT技術活用を支援すべく、米マイクロソフトおよび同社の各国研究・開発拠点において、セキュリティ、AI、IoT分野の最新技術のトレーニングを提供している。

また、東京都中野区や大阪府堺市など、現在6つの自治体とDX推進に関する連携協定を結び、デジタルスキル習得やICT活用を目的とした人材育成支援も推進している。

自治体での人材育成支援の例について、日本マイクロソフト 業務執行役員パブリックセクター事業本部 デジタル・ガバメント統括本部長の木村靖氏は、「DXに取り組むことで自治体職員にとって何が良いのか、そして、自治体の住民にどのような利益があるかわかってもらうような、マインドセットを変えるトレーニングとその活動を推進する組織づくりを行っている。また、普段の業務に役立つデジタル活用のアイデアを出し合うアイデアソンも実施し、アイデアを具体化するためのローコード開発の研修もセットで行っている」と解説した。

  • 日本マイクロソフト 業務執行役員パブリックセクター事業本部 デジタル・ガバメント統括本部長 木村靖氏

    日本マイクロソフト 業務執行役員パブリックセクター事業本部 デジタル・ガバメント統括本部長 木村靖氏

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2022年9月1日、日本マイクロソフトはJICA(国際協力機構)とも包括連携協定を結んだ。JICAでは、デジタルやデータを活用した新事業創出を目標に掲げている。そのために外部との共創や人材ネットワークの可視化を進めるべく、今後は日本マイクロソフトとの連携を通じてデジタルを活用した働き方改革やデジタル人材育成、データ駆動型事業運営に着手するという。

DX推進を加速するうえでのポイントについて、JICA CDO(最高デジタル責任者)の新井和久氏は、「人を変えるところが一番難しいが、そこができればDXは進むと考える。Microsoft製品を使いながら、十分に使いこなせていないと気づいたのが連携協定のきっかけだったが、『Microsoft製品の使い方ならJICAに聞けばいい』と言われるぐらい習熟する意気込みで、デジタル人材育成に取り組みたい」と語った。

  • JICA CDO(最高デジタル責任者) 新井和久氏

    JICA CDO(最高デジタル責任者) 新井和久氏

今後、日本マイクロソフトは、従来から行ってきたデジタル庁へのコミットミントとともに、データ主権とセキュリティ面での官公庁・自治体支援を継続するという。木村氏は、「データを溜めて、分析して、インサイトを得て、国民へ良質なサービスを提供することが、行政DXの大きな目的の1つだ。当社のテクノロジーでデータ主権、かつ安心安全な形でパブリッククラウドを使える環境を構築し、そのための知見も提供していく」と述べた。