東北大学は9月28日、高強度ランニング運動における、冷感作用のある「L-メントール」の飲用が運動中の息苦しさを緩和し、持久運動能力を伸ばすことを実験的に明らかにしたことを発表した。
同成果は、東北大大学院 医学系研究科の堤佳子大学院生、同・大学院 医学系研究科の門間陽樹講師、同・海老原覚教授、同・大学院 医工学研究科の永富良一教授(医学系研究科兼務)らの共同研究チームによるもの。詳細は、世界最大級のスポーツ科学学術団体である欧州スポーツ科学学会の公式学術誌「European Journal of Sport Science」に掲載された。
暑熱環境下の持久運動中にL-メントール溶液を摂取すると、暑さによる不快感が軽減して運動能力が伸びることや、L-メントールの香りを嗅ぐと、軽い運動にともなう息苦しさが緩和することなどが報告されてきたという。L-メントール溶液を飲んだり塗ったりすると冷たさを感じるが、これは実際に温度が下がったわけではなく、L-メントールが冷たさを感じる神経を刺激することで、冷感を生じさせていることが分かっている。
そこで研究チームは今回、暑くない環境下で、かつ競技レベルのランナー(エリートランナー)に対し、L-メントールの刺激が運動能力の改善に役立つのかを実験的に検討することにしたという。
具体的には、エリートランナーを対象に、高強度ランニング(最大心拍数の90%前後の速度一定のトレッドミルランニング)テストが行われ、ランニング中の息苦しさと疲労困憊に至るまでの時間(持久運動能力)を、L-メントール溶液摂取の有無の違いで比較することにしたとする。ランニングテスト前後には長い筒状のパイプ(吸気抵抗)を介して呼吸したときの吸気抵抗閾値が測定されると同時に、呼吸困難感のテストも行われた。
その結果、高強度ランニング中のL-メントール溶液の摂取は、水の飲用に比べて運動中の息苦しさを緩和し、持久運動能力を伸ばすことが確認されたとする。また疲労困憊後は、水の飲用のみでは筒状の吸気抵抗を介して呼吸すると苦しさ(呼吸困難感)が示されたのに対して、L-メントールを摂取しておくと苦しさを感じなくなることが示されたという。運動中の心拍数はL-メントールの有無による違いはなく、呼吸困難感の緩和が持久運動能力を延長させたことが考えられるとする。
なお、研究チームによると、L-メントールは通常の食品に含まれる量や濃度の範囲であること、また呼吸循環器系に特別なアドバンテージを与えているものではないため、ドーピングには相当しないという。
また、ランニングなどの持久運動習慣のない人や疾病を持っている人でも、運動による息苦しさの緩和を通じて、運動に対する心理的な抵抗感が緩和されることで、リハビリテーションや運動療法に対する受容性を高めることが期待されるとしている。