メタバースにNFTと、今年も新しいテクノロジーが世間を賑わした。これらと並んで、注目を集めているテクノロジーに「Web3」がある。Web 2.0の登場から20年近く経った今、次のWebが登場したわけだ。
IT業界はバズワードがとかく現れやすく、これまでもさまざまなテクノロジーが泡のように消えていった。したがって、Web3に対しても「また、いつものバズワードじゃない?」と、懐疑的な人が多いかもしれない。そこで、企業はWeb3に取り組むべきなのか、もし、取り組むべきなら何をしたらよいのか、ガートナージャパンのアナリストである鈴木雅喜氏に聞いてみた。
Web3を取り巻くさまざまなテクノロジー
Web3と企業について語る前に、まずは、Web3について簡単に整理しておこう。ガートナーは、Web3を以下のように定義している。
ブロックチェーンの特徴を利用し、非中央集権型の取引/やり取りに関する信頼の担保とプライバシーの保護、相互運用性の確保をインターネット上で実現するテクノロジー・スタック
鈴木氏は、Web3について「昨年、壮大なビジョンが巷に広がった。最初から仮想的な世界に現実社会を結び付けていく世界と言える。これから10年でフェーズが変わっていくだろう」と語った。
Web3がこれまでのWebと決定的に異なる点は「非中央集権型」という点だ。鈴木氏は「現在の銀行制度において中央銀行が取り仕切っているように、現在の社会は中央集権型をとっているが、Web3によってこうした世界が変わっていく。非中央集権型の世界では、Peer to Peerのやり取りで物事が進む」と話す。
Web3の基盤となる技術に、ブロックチェーン、DAO(Decentralized Autonomous Organization:自律分散型組織)、NFT、デジタルトークン、暗号資産などがある。これらの技術により、非中央集権型の世界では、ユーザーがコントロールする権利を持ち、デジタルトークンや暗号資産が、Web3.のビジネスモデルや経済性の原動力となる。
これらの技術のうち、鈴木氏は特にDAOが重要と述べた。ブロックチェーン・プラットフォーム「イーサリアム」のプロジェクト「Ethereum.org」は、DAOについて、次のように定義している。イーサリアムはDAOを基盤として、暗号資産を運営している。
- フラットな組織で民主化されている
- 変更にあたっては、メンバーによる投票が必要
- DAOで提供されるサービスは自動的に分散化された方法で処理される
- すべてのアクティビティは透明で完全に公開されている
Web3の技術については、別記事で詳しくお伝えしているので、こちらを参照されたい。本稿では、企業のWeb3活用について、フォーカスを絞る。
企業はWeb3に向き合うべきか
ガートナーは今年9月に、「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2022年」を発表した。これは、今後すべての企業にとって重要となる、未来志向型と捉えられるインフラストラクチャを中心とする36のテクノロジーやトレンドとなっているキーワードについて、過度にもてはやされる期間を経て幻滅期を迎え、最終的には市場や分野でその重要性や役割が理解され進化する共通のパターンを描いたものだ。
同ハイプ・サイクルにおいて、Web3とNFTは「過度な期待」のピーク期に位置付けられており、主流において採用されるまで5年から10年かかると推定されている。
では、こうした状況にあるWeb3に対し、企業はどのようなスタンスをとるべきなのだろうか。鈴木氏は、次のように語る。
「現在、世界が大きく変わり始めており、今までの状態にとどまっているとそれらを見失ってしまう。テクノロジーはハイプ・サイクルのピークを越えて、幻滅期を経て市場に広がっていく。幻滅期をはき違えてはいけない。DX(デジタルトランスフォーメーション)を追っている人は長期トレンドとして、先を見据える必要がある。『何が起こっているのか』『今起こっていることは、将来どのような影響をもたらすのか』を明らかにすることが大切」
スマートフォンが1人1台以上、普及した今、誰もがデジタルを簡単に使える状況にある。こうした中、ブロックチェーン、NFTといったテクノロジーも進化しており、価値のやり取りをインターネット上で行うことも可能になってきた。
鈴木氏は「今は米国が中心だが、世界中でWeb3に取り組もうとしている人がいて、紆余曲折はあるものの、既に芽が出て伸び始めている。自社には関係ないと切り捨ててはならない。それが何か、未来がどうなるかを俯瞰する上でまずは体験してみることが重要」とアドバイスする。