ショッピングセンターチェーン「ベイシア」の運営元であり、カインズ、ワークマンなどを兄弟会社に持つベイシア社が、今、全力でデジタル戦略に取り組んでいる。2020年に専任組織を立ち上げて以降、2年弱の間にアプリ開発、OMO(Online Merges with Offline)の実現、データ分析基盤の構築と多くの施策を進め、成果を上げているという。なぜこのようなスピード展開が可能なのか。

ベイシア社でデジタル開発本部 本部長を務める亀山博史氏が8月25日、26日、オンラインで開催された「ビジネス・フォーラム事務局×TECH+ EXPO 2022 for LEADERS DX Frontline 不確実性の時代に求められる視座」で、その秘訣を明かした。

【ビジネス・フォーラム事務局 × TECH+ EXPO 2022 for Leaders DX Frontline】その他の講演レポートはこちら

戦略の実行を加速する7つの項目

群馬、埼玉などを中心に136店舗を持ち、売上高3000億円超のベイシアがデジタル戦略に本腰を入れたのは2020年10月のことだ。マーケティング統括本部 デジタル開発本部組織を立ち上げ、その翌月には「ベイシアアプリ」をローンチ、12月にはデジタルポイントプログラム「ベイシアポイント」をスタートさせた。

2021年4月には楽天と提携し、2022年1月、楽天市場内にベイシア初のネットスーパーをオープン。提携と同時期には、ファン化を目的としたオウンドメディアを開設した。その間、並行してアプリのブラッシュアップも継続したほか、14人の中途採用によって体制面も強化したという。

亀山氏によると、こうした施策を打ち出すベイシアのデジタル戦略は「アプリ・ポイント」「OMO」「Data」「Service」の4つの取り組みで構成される。

  • ベイシアのデジタル戦略のイメージ図

そして、戦略をスピーディーに実行するために注力するのが、以下の7項目だ。

  • 1.デジタルリーダーの採用
  • 2.デジタル戦略の策定
  • 3.デジタルの内製化チーム、デジタルマーケティングの専門家の採用
  • 4.新しい働き方、制度を設計
  • 5.カインズとワークマンのベストプラクティスを活用
  • 6.プラットフォーマーサービスのAPI活用
  • 7.良い文化
  • 中でも3つ目に挙げた「デジタルの内製化チーム、デジタルマーケティングの専門家の採用」について亀山氏は、「世界と比較すると日本企業はIT部門のエンジニア数が足りていない」と業界全体の課題を指摘する。IT人材の7割がユーザー企業に、3割がベンダーにいる米国とは逆に、日本の場合、IT人材のわずか3割しかユーザー企業にはいないのだ。「デジタルの勝ち組は内製化を行い、スピード感を持って開発できている」(亀山氏)ことから、ベイシアではカインズの取り組みを参考にした。カインズでは必要な領域では内製化を進めるべく、経験のあるエンジニアの中途採用を通じて20人弱のチームを作った。これが結果的にスピード改善につながったそうだ。

    また、4つ目の「新しい働き方、制度を設計」は、そのエンジニアを雇用するにあたっての工夫となる。

    「エンジニアの多くは首都圏にいます。そこでオフィスを表参道に立ち上げました」(亀山氏)

    さらに、ジョブ型の給与体系を準備するなど、エンジニアを採用するための土台となる人事制度も整備。デジタル戦略推進に向けた体制を整えた。

    【あわせて読みたい】理想は“昔の魚屋さん” - カインズが進めるデジタル中心のビジネス戦略とは?