東北大学と科学技術振興機構(JST)は9月22日、モデル生物の線虫(C.elegans)を用いて、排便モータープログラム(DMP)による腸内の流動と腸壁からのグルコース(ブドウ糖)の吸収について、腸内で流体力学ではよく知られた「テイラー分散」によって栄養物質が撹拌され、腸壁での栄養吸収を助長していることを発見したと発表した。
同成果は、東北大大学院 工学研究科の鈴木雄貴大学院生(研究当時)、同・菊地謙次准教授、同・大学院 医工学研究科の沼山恵子准教授、同・石川拓司教授らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
数多くの動物は外部からエサを捕食し、腸で消化吸収して栄養を獲得する仕組みを有している。腸での食物消化は、周期的な筋肉の収縮と弛緩をする腸の蠕動(ぜんどう)運動によって輸送されつつ、蠕動による流れの中で物理・化学的に分解される。その後、腸上皮において吸収され、不要物は肛門から排出される。
腸内において蠕動が活発な場合、腸内の流動が速く、また腸の表面積が大きい場合には、グルコース・ビタミン・ミネラルなどの栄養素の吸収が促進され、反対に腸内の流動物の粘度が高く、腸内の流動が遅い場合にはグルコーストランスポーターによるグルコースの取り込みやインスリン分泌が減少することが生理学的に知られている。しかし、腸内における栄養の取り込みと腸内の流動の関係は、生理的・薬理学的に重要であるにも関わらず、腸の蠕動と腸内の流れの計測と、栄養吸収を直接観察することが困難だったことから、詳細な力学的メカニズムはこれまでわかっていなかったという。
そこで研究チームは今回、動物の消化器官の基本構造を有する線虫を用いて、腸内における栄養吸収と腸の蠕動による腸内流動との関係について、これまでの生理学的な知見に流体力学的観点を組み合わせて研究をすることにしたという。その結果、腸内の流動が関与する新たな栄養吸収メカニズムが発見されたとする。