保守的で安定を是とするイメージの強いインフラ業界に変化の時が訪れている。電力やガスの自由化、世界的な脱炭素への動き、国内人口減少による市場縮小など、さまざまな要因が変化を後押ししているのだ。

そうした変化にいち早く対応し、企業改革を進めるのが関西電力グループである。中期経営計画では「Kanden Transformation」を掲げるなど、明確に「変革」を方向性として打ち出している。

8月25日、26日に開催された「ビジネス・フォーラム事務局×TECH+ EXPO 2022 for LEADERS DX Frontline 不確実性の時代に求められる視座」に関西電力 IT戦略室 IT企画部長の上田晃穂氏が登壇。同社が進める変革の背景と取り組みについて語った。

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インフラ産業の変革をもたらす「5つのD」

電気をはじめとするエネルギー事業は、これまで重厚長大で変化の乏しい業界と思われてきた。生活のインフラなので絶対に需要はなくならず、社会の発展に伴って安定した成長が見込める産業だったからだ。

しかし、「現在は事情が異なっている」と上田氏は話す。

その理由として挙げられるのが「5つのD」である。

すなわち、「Decarbonization(脱炭素化)」「Decentralization(分散化)」「Deregulation(自由化)」「Depopulation(人口減少)」「Digitalization(デジタル化)」だ。

脱炭素は言うまでもないだろう。政府がカーボンニュートラル宣言を行い、世界的にもSDGsの文脈で脱炭素が叫ばれている。また、同様に注目されている再生エネルギーは、これまでのような大規模な発電所ではなく、さまざまな場所に分散化している。

2016年から始まった電力の小売全面自由化も大きなターニングポイントとなった。インフラ産業に本格的な競争が持ち込まれ、電力会社はこれまで以上により良いサービスを提供する必要が出てきている。

一方で日本の人口は減少の一途を辿っている。「人口が減るということは、国内市場が縮小するということ」だと上田氏は危機感をにじませる。

そして今、デジタル化の波が訪れているのは周知の通りだ。自由化により厳しい競争が生まれ、シュリンクする市場で生き残りを図るために、デジタル化が欠かせない要素であることは言うまでもない。

これら5つのDにより、エネルギー事業は現在、大きな転換点を迎えている。

三位一体で進めるKanden Transformation

そんな中、関西電力は将来に向けた動きを始めている。中期経営計画(2021-2025)では、エネルギー、送配電、情報通信、生活・ビジネスソリューションの4つをあらためて中核事業に据えた上で、各事業の重なり合う領域や周辺領域にも新たな価値を創出することを宣言。事業や組織に「変革」をもたらす方向性を明確に打ち出したのだ。

この変革を同社ではKanden Transformation――KXと称している。

KXは大きく3つのトランスフォーメーションから構成されている。

まず、「ゼロカーボンへの挑戦」だ。関西電力グループとして「ゼロカーボンビジョン2050」を掲げ、脱炭素の実現に向けた取り組みを推進する。これが1つ目のトランスフォーメーション、Energy Transformation(EX)である。

そして、「サービス・プロバイダへの転換」だ。従来の大規模アセット中心のビジネスに留まらず、ニーズや課題に向き合って新たな価値を提供する企業グループに生まれ変わること。これを、同社ではValue Transformation(VX)と呼んでいる。

最後に「強靭な企業体質への改革」だ。コスト構造改革やイノベーション、デジタル化、働き方改革などを加速し、より筋肉質な組織へと転換していく。言わばBusiness Transformation(BX)である。

  • KXの概要

これら3つのトランスフォーメーションから成るKX実現の重要な手段となるのが、「DX」だと上田氏は言う。

「DXで生産性向上と価値創出に取り組み、中期経営計画のKX(EX、VX、BX)を実現したいと考えています」(上田氏)

つまり、DXなくしてKXは成功しないというわけだ。

そこで次に考えるべきは、DXをいかに推進するのかという点である。

関西電力は2018年に「DX戦略委員会」を立ち上げ、各部門にもDX推進体制を構築。さらにデジタル技術の知見を有するアクセンチュアと合同でデジタル専門会社K4 Digitalを設立するなど、早くからDXに取り組んできた。

それぞれの位置付けは次の通りだ。

DX戦略委員会は、役員をトップとして、全社のDX戦略・計画の策定を行う司令塔になっている。各部門の取り組みを統括・管理・支援し、グループ全体のDXを取りまとめる。一方、各部門におけるDX推進部署は、部門ごとのDX計画の策定と具体的な取り組みの検討・実行を担う。そして、K4 Digitalが最新のデジタル技術を活用して、各部門の取り組みを支援する役割となっている。

こうした三位一体の取り組みにより、関西電力グループにおけるDX推進状況は飛躍的に向上してきたと上田氏は話す。

「2018年から2021年度の期間で、PoCの累計件数は493件に上ります。さらに、そのうち357件は実用化もされています。同期間におけるDX累計投資額は約600億円。これまでのDXは生産性向上がメインでしたが、今後は特に価値創出の取り組みを加速・拡大し、中期経営計画のEX・VXの実現につなげていきます」(上田氏)

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