広島大学は9月2日、酸化銅(Cu2O)ナノキューブを厚み数nmの有機レイヤーで均一に被覆することに成功し、同レイヤーを介して銅上のCO2電解還元を行うことで、メタンを選択的に発生することを見出したことを発表した。
同成果は、広島大大学院 先進理工系科学研究科 基礎化学プログラムの梅田拓真氏、同 黒目武志氏、同 坂本歩夢氏、同 久保和幸 助教、同 水田勉 教授、同 久米晶子 准教授、韓国・成均館大学のSon Seung UK教授らの研究チームによるもの。詳細は、英国王立化学会が刊行する化学全般を扱う学術誌「Chemical Communications」に掲載された。
銅は金属の中で唯一CO2を炭化水素やアルコールに変換できる還元電極として知られている。ただし、水の還元による水素発生が競合するため効率が低下すること、過電圧が大きいこと、不純物に弱くCO2還元活性が容易に失活するということなどが実用化の障害になっていた。
2000年代以降、金属材料の調製技術がナノ粒子をはじめとするナノ構造化、異種金属や無機化合物などとのハイブリッド化など飛躍的に広がったこと、また燃料電池などの発展による電気化学セルの効率化が銅のCO2還元にも応用されるようになり、特にCu2Oなどの銅化合物によるナノ構造体を前駆体とした、エチレン発生を高効率・高選択的に行える触媒が開発されてきた。
一方で、これらの触媒でなぜ選択性・効率が高まるのかという点はまだ完全に解明されるに至っていない。そうした中、CO2還元の進行とともに、銅が次第にその形状と酸化数(主にCu(I)とCu(0))を動的に変えていく結果、活性を変化させ、高活性を発現するものや失活するものができるという点が最近明らかになってきたという。このことは、静的な触媒構造だけでなく、電解中に起こる触媒の構造変化に対して設計的なアプローチの重要性が示されているとされるという。
有機物が接触した銅表面における、CO2還元プロセスについての研究を進めてきたのが研究チームで、有機レイヤーと銅との接触構造を作るにあたり、これまで、Cu2O表面自身が持つ有機物の結合生成反応を表面での有機モノマーの連結に用いることで、有機レイヤーを表面に成長させるという独自の戦略を採ってきたという。
このとき、有機レイヤーは常に銅と接触することで成長するため、銅表面を均一かつ薄く被覆することが期待できるとする。また、有機レイヤーの前駆体としてとして剛直な構造単位を持つ有機モノマーを選び、これらを連結してレイヤー成長を行うと空隙率が上がることが予想されたという。これは、レイヤーで被覆された銅表面原子に対し、CO2やその酸化還元に伴うプロトンなどの移動をスムーズにし、また吸着物からフリーな活性銅原子を確保するという狙いがあるとする。