パナソニックホールディングス(HD)は8月29日、同社グループの5つの項目からなるAI(人工知能)倫理原則を公表した。同日、記者会見を開催し、AI倫理原則の実践に向けた具体的な活動について説明を行った。

パナソニックがAIを導入している領域は、エアコンやカメラなどのくらし事業、自動配送ロボットなどのモビリティ事業、顔認証や現場最適化などのB2B事業の3つだ。2016年からAI強化の取り組みを開始しており、2021年度時点で、グループ全体のAI人材(AIを独力で開発できる人材:パナソニックの定義)は1200人を超えた。

  • パナソニックのAIを活用する主な事業

    パナソニックのAIを活用する主な事業

今回、同社が公表したAI倫理原則は以下の5項目からなる。

  1. 「より良いくらしとより良い社会」を実現すること
  2. 安全のための設計、開発、検証を行うこと
  3. 人権と公平性を尊重すること
  4. 透明性と説明責任を重視すること
  5. お客様のプライバシーを保護すること
  • パナソニックが公表したAI倫理原則

    パナソニックが公表したAI倫理原則

同社は、パナソニックの経営理念「物と心が共に豊かな理想の社会」をベースに、ウェルビーイングとサステナビリティに向けたAI活用を目指すことを宣言した。 パナソニックHDテクノロジー本部デジタル・AI技術センター 課長の佐藤佳州氏は「2019年よりAI倫理の検討を開始し、グループ横断でガバナンスを検討してきた」と、AI倫理原則の公表までの流れを説明した。

  • パナソニックHDテクノロジー本部デジタル・AI技術センター 課長 佐藤佳州氏

    パナソニックHDテクノロジー本部デジタル・AI技術センター 課長 佐藤佳州氏

同社はAI倫理原則の実践に向け、全事業会社から1名以上のAI倫理の担当者を選出し、グループ横断の体制の「AI倫理委員会」を設置。同委員会は、技術に加え、法務・知財・情報システムセキュリティ・品質部門も参画している。

AI倫理委員会では、AI倫理原則の策定とその運用、および推進活動・対外公表を行うだけでなく、AI倫理リスクマネジメントを推進するための「AI倫理リスクチェックシステム」の提供や、AI倫理に関するパナソニックグループ内従業員に対する教育を実施している。

AI倫理リスクチェックシステムは、広い事業領域に対応するためAIの開発現場でセルフチェックできるシステムとして構築されている。現場のセルフチェックの負担を軽減するための策として、製品・サービスの特性にあわせて、必要十分なチェックリストを生成し、各チェック項目に対して、詳しい解説、対応策(情報提供、技術・ツール提供)を付与しているとのこと。

  • AI倫理リスクチェックシステム概要

    AI倫理リスクチェックシステム概要

チェック項目は、「基本事項」「安全性」「公平性」「プライバシー」「セキュリティ」「透明性・説明責任」の6項目あり、チェック対象のAI製品の特性に応じて必要十分なチェックリストを生成する。例えば、安全性の観点からは、「AIが身体、精神、財産などに悪影響を与えるケースを洗い出し、軽減措置を行ったか」をチェックし、セキュリティの観点からは、「AI特有の脆弱性チェックや、関連社内規程や法規を遵守しているか」といったことをチェックする。

  • AI倫理リスクチェックシステムのチェックリスト

    AI倫理リスクチェックシステムのチェックリスト

またパナソニックでは、AI研修体系にAI倫理教育を新設した。グループ全体で責任あるAI活用を実践できる人材を育てる。AI人材育成プログラムに必修リテラシーとして「AI倫理基礎」を追加した。これは非技術者も含めた全社員が対象で、AIの利活用にあたって必要なAI倫理の基礎知識を習得するカリキュラムだ。

  • パナソニックのAI人材育成プログラム

    パナソニックのAI人材育成プログラム

佐藤氏は「AI倫理原則は、パナソニックのAI製品やサービスを信頼して利用してもらうための顧客との約束。全社員でAI倫理活動を実践していく」と意気込んでいた。