企業のDX推進が進む今、取り組みの一環として多くの企業がAI×データ活用に注力していることは言うまでもない。だが同時に、いずれの業界においてもデータサイエンティストの不足が課題となっている。

そうした中でいち早く社内のAI教育プログラムを整備し、いわゆる“市民データサイエンティスト”の育成に取り組むのがヤマハ発動機である。

社内の誰もが当たり前にデータを活用することを目指し、データ分析グループが各事業部門に合わせたAI研修を内製化。すでに多くの事業部門でAIを使ったデータ分析が自走しており、経営層の意思決定にも活用されている。

今でこそ、データ分析グループを中心とした人材育成のCoE組織が確立されているが、ここに至るまでの道のりは決して平坦なものではなかったという。同社はいかにしてCoE組織をつくり上げ、AI活用やAI人材育成で成果を上げるに至ったのか。プロジェクトを進める上で、どのような障壁を乗り越えてきたのか。

プロジェクトを推進したヤマハ発動機 IT本部 デジタル戦略部 データ分析グループ データサイエンティストの藤井北斗氏、同 町田翔氏にお話を伺った。

  • 町田翔氏、藤井北斗氏

    (左から)ヤマハ発動機 町田翔氏、藤井北斗氏

きっかけはAI活用の成功事例

ヤマハ発動機では、古くからAI関連の取り組みが行われてきた。どこからをAIと定義するかにもよるが、少なくとも今AIとして活用されるものへつながる研究開発は約20年前から行われており、2009年頃には自動運転システムの開発が始まるなど、その歴史は長い。

とはいえ、当時はまだ社内において正式なAI教育プログラムは存在せず、有志による勉強会が開催される程度に留まっていたのだという。

潮目が変わったのは、デジタル戦略部にデータ分析グループが立ち上げられた2018年のことだ。同グループを中心に社内におけるAI教育の整備が始まり、AI人材育成に向けた集合研修がスタートした。

翌2019年、それまで研究開発部門でAIによる自動運転や自動配車システムなどに携わっていた藤井氏が、デジタル戦略部に異動。DX推進に取り組むべく、データ分析グループに加わった。同氏は当時から、データサイエンティストだけでは業務の課題を解決するところまで持っていくことは難しいと考えていたのだという。

「分析した結果が正しかったかどうかや、業務のオペレーションに活かせるのかといったことを判断するには、現場のドメイン知識を持った人と協力する必要があります」(藤井氏)

その重要性が見えたきっかけの一つは、アルミ鋳造の不良品分析におけるAI活用の成功事例だ。

「なぜそのチームが大きく成功したのかを考えたとき、メンバーの1人がもともと製造現場の出身で、業務をしっかりと理解していたからだということに行き当たりました」(藤井氏)

では、データサイエンティストと事業部門の担当者が密にコミュニケーションをとるようにすればよい。だがここで、課題があった。それはデータサイエンティストが当たり前のように使う技術的な表現を現場の人にはわかってもらえないこと、さらに双方の仕事の進め方が異なるため、話が噛み合わないことだった。

そこでまずは、座学の「データサイエンス入門」によって言葉や文化の“目線合わせ”を行い、データサイエンティストとスムーズにコミュニケーションできる人材を増やすことを目指した。すると、それをきっかけに「自分でもデータ分析をやってみたい」という人が現れ始めたため、レベル別にフェーズを整備し、プログラミング教室やブートキャンプを実施したり、自らの部署での活用方法を考える「やりきりOJT」を用意したりと研修を拡張していったのである。

開始当初の参加者数は15人だったという研修は、2019年には29人、2020年には403人と着実に増加し、2021年にはのべ741人が受講するまでの成長を見せた。

ただし、同社のAI研修は強制ではない。対象となるのは自ら志願した社員だ。ボトムアップの文化を持つというヤマハ発動機では、自主的に手を挙げてチャレンジする社風が浸透しており、さまざまな部署から希望者が集まるのだという。

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