日本ディープラーニング協会(以下、JDLA)はこのほど、東京都内にて、同協会が実施するG検定およびE資格の合格者の交流イベント「合格者の会 2022」を開催した。本稿ではコロナ禍を経て3年ぶりに現地開催となった同イベントから、JDLA事務局長である岡田隆太朗氏のオープニングセッションの様子をお届けしよう。
JDLAではディープラーニングを中心に、AI(Artificial Intelligence:人工知能)を活用してDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進できる人材を育成すべく、G(ジェネラリスト)検定、E(エンジニア)資格を実施している。
G検定はディープラーニングの基礎知識を有し、ビジネスにおいて適切な活用方針を決定して活用できる能力や知識を有しているかを検定する。一方のE資格はディープラーニングの理論を理解して、適切な手法で実装する能力や知識を持つかを認定するものだ。
デジタル人材育成への投資は待ったなし
岡田氏は“1億総AI人材時代”の到来に向けた展望と、人材育成に関する政府の動向について語った。
ステージに登った岡田氏は「G検定、E資格の合格おめでとうございます。合格者の皆さんが社会で活躍することこそが当協会を設立した目的だ。皆さんの活躍を応援するための場として本日のイベントを主催した」と、参加者に力強く祝福を送った。
岸田内閣が示す新しい資本主義では、成長と分配が主な方針だ。特に人への投資を国策としており、革新的なデジタル技術によって我が国の成長を促したい考え。2022年初めの施政方針演説において、岸田首相は人的投資を基盤とするために企業の非財務情報の開示ルールを策定すると表明した。人材への投資状況や人材育成の成果を開示するような制度の策定が、今年中に急務で進みそうだ
こうした構想の下で、首相はデジタル人材育成のために今後3年間で4000憶円の施策パッケージを創設するとも発表している。3月下旬には経済産業省がデジタル人材育成プラットフォーム「マナビDX」を公開するなど、デジタル人材の育成は国を挙げて加速している。
6月には、政府は企業に対して「人への投資」の情報開示を求める方針を示した。特に海外で従業員の育成や働きやすい環境づくりを積極的に行っている企業への投資が増加しており、こうした流れを受けていると思われる。
政府としてはさらに、人への投資を積極的に進めている企業は減税し、反対に人への投資に積極的でない企業には税負担を重くする仕組みも想定しているようだ。
岡田氏はこうした国の動きなども紹介しながら「人的資本経営コンソーシアムや日本リスキリングコンソーシアムなどが立ち上がり、勉強をした人がその知識とスキルを生かして新しい働き方に挑戦できる時代になりつつある」と現状を語った。
デジタル人材を育成するためのJDLAの取り組み
2017年に開始したG検定だが、これまでは土曜日の開催のみだった。2017年に1回、2018年に2回実施し、2019年以降は毎年3回ずつ実施している。
しかし、11月に実施予定の2022年第3回G検定は、さらなる受験者数の増加を狙って初の2日間開催となる。11月4日(金)または5日(土)からいずれかの日程を選択できるため、平日の受験も可能となったのだという。
さて、これまでの受験者の推移を見ると、G検定の累計受験者数は8万1444人、累計合格者数は5万3027人に達した。一方のE資格は累計受験者数が6647人、累計合格者数は4838人だ。
JDLAの調査によると、G検定合格者のうち約6割の人が「G検定の取得が役に立った」と回答しているとのこと。「G検定を取得したことで検討段階であったAI・IoTに関する案件を任され、実際にAIモデルの作成などを行うことができた」「合格者同士のコミュニティから実際にAI案件のパートナーができた」といった声もあるという。
E資格合格者も同程度の人が「E資格の取得が役に立った」と回答したそうだ。「業務で問題なくAI関連のソースコードを書くことができた」「クライアントのDXやデータ利活用について的確なアドバイスができるようになった」といった声が寄せられている。中には「メーカーの開発職から、AIの企画や導入を決めるセクションを任せられる会社に転職できた」例もあるとのこと。
しかし岡田氏によると、両試験とも一都三県での受験者が大半を占めており、地方ではまだ受験者が少ないのが課題なのだという。さらに、G検定取得者のうちAIに関する業務に携わっている人が約4割にとどまる点も課題だ。E資格取得者でもAI関連の業務に携わっている人は47%と半数に満たない。
こうした状況に対してJDLAは、G検定およびE資格試験の合格者のみが参加できるコミュニティ「CDLE(Community of Deep Learning Evangelists)」で合格者同士の交流を促す。現在までに同コミュニティの会員数は6000人を超えたとのことだ。
JDLAは今後、非エンジニア向けのAI実装体験イベントや、実際の企業課題を解決するためのハッカソンなども予定している。試験合格後に知識や経験を活用するための場を提供することで、学び続ける姿勢を促す狙いがあるとしている。
岡田氏は「さきほど述べたように、まさにデジタル人材であるG検定およびE資格の合格者の皆さんの活躍こそが、日本の発展を導くはず。当協会では合格者の皆さんを全力でえこひいきする」と語って会場の笑いを誘い、講演を締めた。