探査機の最新状況は?

OMOTENASHIとEQUULEUSの仕組みやミッションについては、以前、詳しく紹介したので、そちらについては過去記事の方を参照して欲しい。ここでは、打ち上げ直前の最新状況についてお伝えしたい。

参考:日本の超小型探査機「OMOTENASHI」と「EQUULEUS」は月に飛んで何をする?

OMOTENASHIは、「世界最小」の月面着陸を目指す。キューブサットの限界により、一般的なソフトランディングではなく、50m/s程度の残留速度がある“セミハード”ランディングとなるものの、クラッシャブル材で衝撃をある程度吸収。着陸部の機器内はエポキシで充填し、1万G以上に耐える設計になっている。

  • 本体(OM)は分離

    本体(OM)は分離し、700gの着陸部(SP)のみ減速させる (C)JAXA

8月29日に打ち上げられた場合、月面には9月4日に到着。着陸部には送信機が搭載されており、着陸予想時刻を過ぎても電波が受信できれば成功の確認となる。OMOTENASHIの開発を担当した橋本樹明氏(JAXA宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 教授)は、「この記録を破るランダーはしばらく無いのでは」と、小ささに自信を見せる。

  • 8月29日に打ち上げられた場合のOMOTENASHIのスケジュール

    8月29日に打ち上げられた場合のOMOTENASHIのスケジュール (C)JAXA

前述のように、成功すれば日本初の月面着陸となるが、相当チャレンジングなミッションであるため、成功するかどうかは何とも言えない。橋本氏の試算によれば、着陸の成功確率は「30%程度」だという。

成功するかどうかのカギは、着陸時の減速(DV2)に利用する超小型固体ロケットの噴射方向と点火タイミングだ。点火タイミングで許される誤差はわずか0.05秒程度。軌道も100m程度の精度で決定する必要があり、ギリギリまで軌道の計測を行う。

  • 成功するためには、極めて正確な制御が必要になる

    成功するためには、極めて正確な制御が必要になる (C)JAXA

成功確率を上げるには、なるべく垂直に近い方向から着陸するのが望ましいという。そのため、元々はDV2の角度は80°程度を想定していたのだが、8月29日の打ち上げだと飛行中に長時間日陰に入ることが分かったため、着陸地点を南側に変更。その結果、DV2方向は60°程度になり、成功確率が60%程度から30%程度に下がってしまった。

  • 着陸地点は、赤道付近の赤丸から南緯30°~60°程度の緑丸の領域に変更

    着陸地点は、赤道付近の赤丸から南緯30°~60°程度の緑丸の領域に変更 (C)JAXA

ただ、より厳しい条件になったとは言えるものの、この数字自体には「あまり意味は無い」という。残留速度が75m/s以上になっても壊れるとは限らないし、逆にそれ以下でもたまたま岩に直撃すれば壊れるかもしれない。運要素もかなり大きい。

また、着陸部には撮影機能はないが、本体側にはモニターカメラが搭載されている。8月29日の打ち上げだと逆光になるため、月の撮影にはあまり条件が良くないものの、運用に余裕があれば「なるべく挑戦したい」とのことなので、期待したいところだ。

一方EQUULEUSは、地球から見て月の向こう側にあるラグランジュ点L2を目指す。そのために、水を推進剤とするレジストジェットを搭載。月スイングバイや太陽潮汐力を利用した効率的な軌道操作技術を実証する。この方法だと、飛行時間は長くなるものの、キューブサットでも実現可能な数10m/s程度の小さなΔVで到達できるようになる。

  • 効率的な軌道操作によって、約1年後にL2へ到達する予定

    効率的な軌道操作によって、約1年後にL2へ到達する予定 (C)JAXA

EQUULEUSの開発を担当した船瀬龍氏(JAXA宇宙科学研究所 学際科学研究系 教授、東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻 准教授)は、「今後、Gatewayを介した大きな物流が発生する。超小型探査機をたくさん運ぶことができれば、Gatewayから小惑星や火星まで行くこともできるようになる」と、今回の実証の意義を説明する。

  • 8月29日に打ち上げられた場合のEQUULEUSのスケジュール

    8月29日に打ち上げられた場合のEQUULEUSのスケジュール (C)JAXA

両機とも、少し気になるのは、SLSの打ち上げが遅れに遅れた結果、NASA側への引き渡しから1年以上が経過してしまっていることだ。通常は、機体の最終チェックをしてから引き渡し、数カ月程度で打ち上げるのだが、こんなに長期間待たされるというのは両氏とも経験がないそうで、その点について「不安はある」という。

ただ、「海の近くなので電子機器が腐食しないよう十分コーティングしておくよう事前に指示されていて、その通りにやっているのでおそらく問題は無い」(橋本氏)、「1年の待機でダメになる要素は特に無いので、多分大丈夫だろうとは思う」(船瀬氏)とのことで、それほど大きな問題では無い模様だ。