米デル・テクノロジーズは近年、大きくビジネスモデルを変えつつある。従来、インフラ製品やPCなどハードウェアの販売を主軸にしてきたが、2021年には同社の全製品をas a Serviceモデルで提供する「APEX」の本格展開を開始した。新型コロナ禍により、情報システムには事業環境の大きな変化に対応できる柔軟性が求められるという課題に改めてスポットが当たったが、ITプロダクトの調達にも柔軟性と多様な選択肢が求められるようになっている。

こうした変化は、多くの顧客との接点を担い、デル・テクノロジーズの製品やサービスに付加価値を提供してくれる存在であるチャネルパートナーのビジネスにも当然ながら影響している。同社ビジネスの成長の一端を担う彼らとの協業の在り方は、今後どのように変化していくのか。米デル・テクノロジーズでインターナショナルパートナーセールス担当プレジデントを務めるディエゴ・マダラニ氏に最新のパートナー戦略や日本市場への期待などを聞いた。

パートナーの変革を促す新プログラム

今年2月、デル・テクノロジーズはパートナープログラムを5年ぶりに刷新し、「パートナープログラム2022」をローンチした。「パートナー自身の変化や成長に向けた取り組みを網羅的かつシンプルにサポートできるプログラムへの進化を図った」とマダラニ氏は説明する。

  • 米デル・テクノロジーズでインターナショナルパートナーセールス担当プレジデントを務めるディエゴ・マダラニ氏

    米デル・テクノロジーズでインターナショナルパートナーセールス担当プレジデントを務めるディエゴ・マダラニ氏

デル・テクノロジーズのパートナーは、同社製品の再販パートナーである「ソリューションプロバイダー」、同社製品にカスタマイズを加えて付加価値製品を提供する「OEMパートナー」、同社製品・サービスを活用したクラウドサービスを提供する「クラウドサービスプロバイダー」の3種類のカテゴリーに大別される。

従来はこのカテゴリーごとに、上位から順に「Titanium」「Platinum」「Gold」といったパートナーレベルが設定され、このレベルに応じてデル・テクノロジーズから受けられる支援内容やリベート率などが決まっていた。そのため、例えばソリューションプロバイダーとしてのビジネス規模が大きくTitaniumの認定を受けているがクラウドサービスプロバイダーとしての実績は乏しいためGold認定だというパートナーの場合、案件の種類によってパートナーとして得られるメリットが異なっていた。

パートナープログラム2022では、複数のカテゴリーで異なるパートナーレベルの認定を受けているパートナーでも、案件の種類を問わず一元的な基準でリベートやデル・テクノロジーズからの支援を受けられるようにした。マダラニ氏はこの改定について「ネガティブなインパクトを受けたパートナーは存在せず、デル・テクノロジーズがいかにチャネルパートナーを重視しているかの表れとして受け止めてもらっている」と話す。

新たなパートナープログラムが必要となった背景には、デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が浸透する中で、チャネルパートナーの事業環境も大きく変化したという事情がある。

マダラニ氏は「あらゆる業界がDXへの取り組みを本格化しており、新型コロナ禍がその動きを加速させた。業務のデジタル化やリモートワーク環境の整備を手始めとしてDXに向けた基盤整備が多くの企業・組織で急速に進んでいるし、政府の施策や教育のあり方も(デジタル活用を前提にしたものに)大きく変わった」と指摘する。結果としてチャネルパートナーは「顧客のDXの旅を総合的に支援することが求められる存在になっている」。

顧客や市場の要求が複雑かつ高度化した現状を受けて、チャネルパートナーも自らのビジネスモデルの変革に取り組んでいる。従来はリセラーやシステムイングレーター、クラウドサービスプロバイダーなど、いずれか一つの役割を果たせばビジネスが成立したが、顧客のDXに伴走するとなれば「より価値の高い知見や技術力を獲得しつつ、従来のパートナーの分類を横断して複数の要素を組み合わせたソリューションを提供する必要がある」(マダラニ氏)わけだ。

パートナーにとっては、新たなスキルセットを持つ人材の獲得や人材育成によるケイパビリティの拡張に積極的に投資することは有力な選択肢の一つと言えよう。しかし現実的には、あらゆるパートナーにそうした体力があるわけではない。マダラニ氏は「複数のパートナーが自社の得意な領域を組み合わせて一つの案件にあたるといったエコシステムの変化が起きている」と見ているという。パートナープログラム2022には、こうしたパートナーのビジネス変革を促すトリガーにしたいという狙いもある。補完的な強みを持つパートナー同士のマッチングなども主導していく方針だ。

APEXはストレージとFlex On Demandが成長をけん引

他方、新型コロナ禍を経て、時に予測が難しい急激な社会環境の変化にも対応するためには、ビジネスの重要な基盤である情報システムについても調達の柔軟性が必要であるという認識が急速に浸透した。これに伴い、「従来のような設備投資型の情報システム整備ではなく、as a Serviceモデルでさまざまなプロダクトや機能、サービスを利用したいというニーズが拡大している」とデル・テクノロジーズは見ている。クラウドの利用拡大もまさにそうしたトレンドの範疇と言える。

ITインフラ製品やPCなど、ハードウェア製品の販売を中心に成長してきた同社とそのチャネルパートナーも、「リカーリングモデルでサービスを提供するビジネスに軸足を移していく必要ある」とマダラニ氏は指摘する。そのための戦略的な商材と位置付けるのがAPEXだ。

マダラニ氏はAPEXを「顧客はもちろん、チャネルパートナーのビジネス変革を支援できるサービスモデル」だと強調する。グローバルではストレージの「APEX Data Storage Services」をはじめとするデータマネジメント関連サービスが特に好調で、「競合他社の製品・サービスと比べても圧倒的な支持を得ている」としている。

また、デル・テクノロジーズはもともと、一部ストレージ製品やサーバー、HCIなどをサービス型で提供するビジネスを展開しており、「事前に設定した基本容量分のコスト」に基本容量を超えた分のコストが従量制で加算される「Flex On Demand」という課金モデルが存在した。これがAPEXに統合されるかたちになり、APEXサービス群全体の成長をけん引している。

「データマネジメント製品も含め、当社のテクノロジーはオンプレミス/プライベートクラウドで最高のものだと自負しているが、それをコストの効率がいいかたちで利用できる仕組みとして評価されている」とマダラニ氏は説明する。

こうしたAPEXサービス群をより多くのチャネルパートナーが積極的に提案できるように、同社はパートナー向けのトレーニングメニューを充実させるとともに、インセンティブも充実させているという。

ちなみに日本市場でAPEX Data Storage Servicesがチャネルパートナー経由で提供されるのは8月からだが、Flex On Demandについては2021年だけで約10件の案件が成立している。「パートナーの皆さんは新しいビジネスモデルを考える上でAPEXに大きな関心を寄せてくれている」と手応えを語る。

マダラニ氏は2023年度(23年1月期)第1四半期のパートナービジネスの状況についても言及した。パートナー経由の売上高は前年比8%増で、ストレージやサーバーは特に成長が著しく、20%を超える売り上げ増を記録した。また、新規顧客の66%がパートナー経由での獲得だった。「前年度が過去最高の業績だったにもかかわらずさらに成長している」として、パートナープログラム2022もその追い風になっているとの見解を示した。

  • 2023年度(23年1月期)第1四半期はインフラ製品を中心にパートナービジネスが好調

    2023年度(23年1月期)第1四半期はインフラ製品を中心にパートナービジネスが好調

「新しいパートナープログラムは我々が独断で決めたものではなく、チャネルパートナーと丁寧にコミュニケーションを取りながら一緒につくり上げたものと言える。実際にパートナーからはポジティブな反応が得られているし、成果が数字にも表れている。これからAPEXのサービス群がどんどん充実していく日本でも、パートナーのビジネス変革や成長に寄与すると期待している」(マダラニ氏)