創業50周年を迎えた福祉工場「オムロン太陽」

大分県別府市に、日本で初めての福祉工場「オムロン太陽」がある。そんなオムロン太陽は2022年4月に創業50周年を迎えた。

  • オムロン太陽

    大分県別府市にあるオムロン太陽

同社はオムロンの創業者である故・立石一真氏の「企業は社会の公器である」という考えと、社会福祉法人太陽の家創設者の中村裕医学博士の「世に身心障がい者はあっても、仕事に障がいはあり得ない」という理念が共鳴したことから、1972年にオムロンと太陽の家の共同出資により設立された。今でも、オムロン太陽の隣には太陽の家が並んでいる。

同社では、レントゲンといった医療機器用の押しボタンスイッチや、オートメーション用サムロータリースイッチ、リレーソケット、トリガースイッチといった電子部品を製造している。医療機器用の押しボタンスイッチは、コロナ渦で需要が増し、通常時の4倍の注文が入ったという。

  • オムロン太陽で生産している電子部品のサンプル

    オムロン太陽で生産している電子部品のサンプル

2022年6月時点の従業員数は72名、うち障がいのある従業員が32名。オムロン太陽で受けた注文は、一部を太陽の家に再委託し、指導もしながら業務を行っている。

オムロン太陽では、働きやすいようにさまざまな工夫がなされている。今回、オムロン太陽の工場を見学させていただき、工夫の数々を見せていただいた。そこには、障がいの有無に関わらず「全員が働きやすいように改善していこう」という、どの会社にも必要な姿勢があった。

1人のためではなく、全員が働きやすいように

まず、見学させていただいたのは、資材倉庫。資材倉庫で活躍しているという道具が「数えるくん」だ。

発達障がいなどで数を数えるのが苦手という従業員の課題を解決すべく、手作りした道具だという。「資材をいくつ持ってきて」といった指示が出た際に使用する。数えなくても、資材を数えるくんに並べるだけで指定された数を持ってくることができる。

  • 数えるくん。モノを順番に並べていくだけでいくつとったかが可視化できる。数を数えるのが苦手な従業員が使用し、数え間違いなどを防ぐ

    数えるくん。資材を順番に並べていくだけでいくつ取ったかを可視化できる。数を数えるのが苦手な従業員が使用し、数え間違いなどを防ぐ

オムロン太陽のダイバーシティ&インクルージョン推進グループ長の江口恵美氏は「数を数えるのが苦手と聞くと、“じゃあ、生産管理の仕事は難しいかな”となるが、私たちは“じゃあ、道具を使って解決してみよう“となった。数える君があれば、発達障がいがあっても生産管理の現場で働ける。できることが増えるということになる」という。

工場内にはほかにも、外履きと上履きを履き替えることができない車いすの従業員用に、車いす一周分の除塵工程が整備されている。車いすの従業員でも使いやすいように、台車にブレーキが設置されてたり、工場内の作業台も70cmと低く設置されている。

  • 車いす用の除塵工程

    車いす用の除塵工程

  • 車いす用のブレーキ

    台車に設置されたブレーキ

「にこにこボード」もオムロン太陽の工夫の1つだ。自分の体調や状態をボードで周囲に知らせる。それを見ることで、周囲の人もその人の状態がわかり、配慮がしやすくなる。にこにこボードを導入して以来、突発的な休みが減ったという。

  • にこにこボード。体調などを周囲に知らせる。

    にこにこボード。体調などを周囲に知らせる

  • カードにもバリエーションがあり、状況を手軽に伝えられる

    カードにもバリエーションがあり、自分の状況を手軽に伝えられる

片手ではんこを押す作業ができるようにする治具や、片手で箱折り作業ができるようにする治具もオムロン太陽内で作ったものだ。治具を作るための工作室も工場内に整備されている。

  • はんこを片手で押すことができるように製作された治具

    はんこを片手で押すことができるように製作された治具

  • 治具を製作するオムロン太陽の従業員

    治具を製作するオムロン太陽の従業員(提供:オムロン太陽)

このような治具を作るなどの改善提案は、誰かの指示によるものではなく、現場からアイデアを出し合って、改善していくのだという。現場起点の改善提案は2011年度からの10年間で1361件にのぼる。

江口氏は「1人のためではなく、全員にとってよい改善になるように心がけている」という。

オムロン太陽の立石郁雄 代表取締役社長は「オムロン太陽では、生産ラインではなく、人を主役としてルールや治具などを変えてきた。障がいのある、ないに関係なく、全員が生き生きと働きやすい職場をつくるという“ユニバーサルものづくり”を目指している。そのためには、やはり利益を出すことが非常に重要だと考えている」という。その言葉通り、働きやすさと利益を追求し、2021年度には、過去最高レベルの売り上げを達成した。

全員が個性や能力を発揮する職場にするために

立石社長は今後の目標について「オムロンの企業理念”人間性の尊重”という考えのもとに、障がいの有無に関わらず、全員が個性や能力を発揮する職場にしていくためには、まず、私たちは電子部品事業の生産工場として品質を担保しながら、利益を出し続けていくというのが前提になると考えている。また、そのうえで、多様な従業員がいるからこそ生まれるソリューションやノウハウを社外に展開することで、共生社会の実現に貢献していきたい」とした。

さらに、オムロンの長期ビジョン「SF2030」における非財務目標にて掲げている「海外28拠点での障がい者雇用と日本国内の障がい者雇用率3%の継続」を達成するためにも貢献していくという。

最後に江口氏と立石社長に、障がいの有無に関わらず、誰もが個性や能力を発揮できる職場づくりには、何が重要になるのか伺った。

江口氏「障がいのない人がある人の理解をするといった一方通行の理解ではなく、相互理解を深めることが重要だと思う。”配慮”だけではなく、お互いが理解しあうことが大切だと考えている」。

立石社長「オムロンの企業理念”人間性の尊重”がベースとして大事だと思う。機械にあわせて人を配置するのではなく、人間を主役として考えると、人が成長できる環境ができると思う。また、それぞれを理解し、どうしたら活躍できるかをお互いに考える、そういった仕組みが重要だ。そして、そういった仕組みが、なんらかの目標を達成するためのものだと続いていくと思う。オムロン太陽でいえば、お客様が満足できる品質、生産性にするために、社員が活躍できるような改善を図っている」。

取材を通じて、江口氏の「1人のためではなく、全員にとってよい改善になるように心がけている」という言葉が非常に印象深かった。そこには、障がいの有無に関わらない、働きやすい職場づくりへのヒントが詰まっているように感じた。

  • 今回、お話を伺ったオムロン太陽の立石郁雄 代表取締役社長とオムロン太陽のダイバーシティ&インクルージョン推進グループ長の江口恵美氏

    今回、お話を伺ったオムロン太陽の立石郁雄 代表取締役社長(左)とオムロン太陽のダイバーシティ&インクルージョン推進グループ長の江口恵美氏(右)