コアスタッフは7月5日、自社の取り組みならびに今後の事業戦略についての説明会を開催。より顧客ニーズに沿った戦略を進めていくことで、自社の強みをさらに強化していく方針を示した。
コロナ禍の巣籠り需要を背景に2019年に落ち込んだ半導体市場は2020年、2021年と大きく市場を成長させ、2022年も多くの市場調査会社はWSTSなどがプラス成長を予測している。しかし、足元では、ロシアのウクライナ侵攻や世界的なインフレなどを背景に個人消費の落ち込みが生じ、それに伴い、民生品を中心に半導体の需要も減速が囁かれる状況となってきている。
2022年は踊り場も、半導体市場の長期的には成長が持続
ゲストスピーカーとして登壇したOmdiaのシニアコンサルティングディレクターを務める南川明氏は、こうした足元で起こっている半導体市場の軟化について、世界のGDP成長率と民間最終消費支出(G7)の相関性をあげ、「2020年は世界のGDPは前年比で約5%減となり、民間最終消費支出(G7)も近い数値のマイナス成長となった。一方で2021年に入ると、GDPは同6.0%増とプラス成長となったものの、民間最終消費支出は買い増しや早めの購入などがあったことから同11%とオーバーシュートが発生してしまった。2021年が良かった反動から、2022年のGDPは3%ほど、場合によっては2%台に突入する可能性もあり、相関性がある民間最終消費支出も買いすぎたことの反動から今後はアンダーシュートが生じる可能性がでてきた。そのため、これから半年から1年ほどは調整が生じる可能性がある」と、市場の見通しを説明。ただし、長期的に見れば、そこまで心配する必要はないともした。
その背景にあるのが、これまでの半導体市場と異なる流れができつつある点。これまで、半導体はシリコンサイクルと呼ばれる約4年で景気の好不調が循環する流れがあった。それは半導体の消費アプリケーションの主体がPCとテレビであり、その買い替えサイクルなどに左右されてきたことが大きい。2000年代後半にスマートフォン(スマホ)が爆発的に普及すると、半導体の一大消費アプリケーションに踊りでたが、PC、テレビ、スマホ、いずれもが個人で購入して消費することがメインであることに変わりはない。
2017年ごろから半導体市場がメモリバブルを背景に大きな伸びを見せ始めたころから、スーパーサイクルという表現が一部で取り上げられるようになってきたが、これは半導体需要が、これまでのPC、テレビ、スマホ主体から、IoTを筆頭に、自動車、産業機器など幅広いアプリケーションで盛り上がってくることを指したものだが、南川氏は、「個人の消費が鈍化する一方で、それをカバーするように政府の消費が進む」とする。いわゆるデジタルトランスフォーメーション(DX)に代表されるデジタル化の進展、そしてカーボンニュートラルの実現に向けたグリーントランスフォーメーション(GX)の存在がそれにあたるとする。「こうした分野は政府が投資するインフラに近いもの。個人の消費と政府の消費の両輪ができるため、これからの10年は、これまでの10年に比べて、けん引役が強いものとなる。足元の小さなリセッションは当然起こるが、長期的に見れば、かなり力強く成長が続くと思われる」と、多少の踊り場は迎えるものの、総じて半導体産業は今後も成長が続くとの見通しを示す。
世界から注目を集める日本の半導体関連産業
また南川氏は、そうした状況において日本は注目される存在になってきているともする。米国と協力して2nm級のプロセスの設計と量産に向けた取り組みを進めるという話も出てきているが、それ以上に半導体製造装置・材料分野での強さが挙げられる。「半導体製造装置のシェアは日米合算で約70%、材料は日本だけで約56%。ウェハ、レジスト、ガスなど、日本がトップシェアを有している分野は多い。装置と材料というサプライチェーンの重要なポジションを日本が占めていることを世界が理解した。だから、日本と協力しないといけないということになり、世界中の半導体政策担当者が日本に調査しにきている」と南川氏は世界の潮流が日本に追い風を吹かせているとするほか、経済産業省(経産省)としても3つのステップで日本の半導体産業の育成を目指すことを考えているとする。
第1ステップとなるのは、補助金政策。すでにTSMCの熊本工場(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing:JASM)であったり3DIC開発、古い半導体工場のリプレースなどに補助金が支給されることとなっているが、中でもTSMC(JASM)による28nmプロセスの国内製造は、IoTや自動車関連などで必要となる超最先端プロセスを必要としないアナログ半導体やマイコンなどを国内で調達可能とする体制を構築することに必須となる。そして第2ステップが、日米協力による2nmプロセス以降の技術開発。そして第3ステップで日本の強みを発揮できる技術の強化や、強い最終製品の創出といったことを目指すというもので、全体として5~10年スパンでの取り組みが想定されている。
これからの半導体をけん引するDX、GX、メタバース
これからの半導体のけん引役を産業別に見ると、市場規模としてはPCやスマホ、データセンター/HPCが依然として大きいが、成長を支えるのは産業機器(インダストリアル)や自動車だという。特に自動車は脱ガソリンの世界的な動きが電気/電子化(E/E)を加速、電気自動車(EV)の普及など、半導体搭載量が劇的に増加していくことが期待されている。「自動車1台あたりに使われる半導体の金額は、ガソリン車で500ドル程度、これがEVになると1600ドル、テスラは2500ドルと言われている。同じ車両1台であっても、使われる半導体の量が違ってくる」と、世界的な潮流が半導体の成長のけん引役の1つになるとする。
EV化による温暖化ガスの排出もかかってくるGXも重要な市場になると南川氏は指摘する。「国家としてカーボンニュートラルを実現する必要が生じている。その中における半導体のインパクトとして、太陽電池、風力発電、EVなどが注目されるようになってくる。2015~2020年ころのそうした市場は、半導体市場全体の5%ほどであったが、これが2021年以降、一気に伸びる兆しを見せており、2030年には半導体市場全体の9%を占めるようになり、半導体市場の中でも存在感を示すようになってくる」とする。
また、そうした再生可能エネルギーやEVが生み出したデータ処理であったり、IoTやロボットを活用した省人化、省エネルギー化などを含めたDX、中でもデジタル化については、さまざまな機器が通信を行う必要が生じるなど、幅広い市場に影響を及ぼすため、現在、半導体市場全体の25%ほどがデジタル化に関与しているとされているが、2030年にはそれが60%ほどにまで高まることが期待されるとする。「これはすごく大きなインパクトになる。また、GXで使われる半導体は電源などが関わってくるのでアナログやマイコンがメイン、一方のDXで使われる半導体はデータ処理が必要なのでロジックで先端プロセス品とはっきりと分かれてくる。プレイヤーが異なる。デジタルはIntelをはじめ、強いメーカーが絞られているが、アナログは事業規模がそこまで大きくない企業も多い。アナログ半導体の市場が伸びるということになれば、アナログ半導体を有していないロジックメーカーが、そうしたアナログ半導体企業を買収するという動きもでてくるだろう」と、半導体産業のさらなる再編が生じる可能性も指摘した。
半導体生産能力は今後も向上するのか?
現在、世界中で300mmウェハ工場の新設/ライン拡張に向けた動きが出てきているが、半導体メーカーの投資総額で見ると、2017年からそれまでの総額6兆円規模から10兆円規模に引き上げられており、これまでも設備投資を怠っていたわけではない。それなのに、この2年ほど、半導体の需給バランスは崩壊し、未曽有の半導体不足が生じることとなった。
南川氏は、「ここ数年の設備投資額の増加は、例えば3D NANDの場合、層数を増やす方向が中心であり、層数が増えた分、出力されてくるまでの期間が延びることとなった。ロジックにしても、10nmプロセス未満では、それまでなかった工程を追加するなど、工数が増加し、出力までの期間が延びるようになった。さすがに2020年~2021年にかけてさらなる投資が実施されるようになり、生産能力も増加するようになってきた。その結果として、今後2~3年はオーバーキャパシティになる可能性がある。しかし、逆に言えば、キャパシティを増やすためには、2020~2021年規模のより一段高い投資を行う必要がある時代に突入したといえる」と、今後の半導体ニーズが多様化する時代における設備投資額は、従来以上にかかることになることを強調した。