関西学院大学は7月4日、働きアリが仕事(タスク)を経験することで、よりそのタスクに従事しやすくなることを発見したこと、ならびに、この経験の影響は元のタスクによって異なっており、巣外での採餌を担う個体では経験がタスクへの従事のしやすさを規定するのに対して、巣内での子育てを担う個体ではタスク経験は影響しないことが明らかになったことを発表した。
同成果は、関西学院大 理工学研究科の田中康就大学院生、同・北條賢准教授、同・下地博之助教らの研究チームによるもの。詳細は、動物の生態に関する全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Frontiers in Zoology」に掲載された。
アリやミツバチなどの真社会性昆虫は、地球上のさまざまな環境で繁栄しており、例えば働きアリ(ワーカー)では、それぞれの個体が年齢に応じて異なる役割を担うことが知られているが、その分業は完全固定ではなく、コロニー内でのタスクに偏りが生じた際には、ワーカーが柔軟にタスクを切り替えることで分業を再構築される仕組みを有することが知られている。
コロニー内のこうした分業を維持する鍵として注目されてきたのがこうした柔軟なタスクの切り替えであり、それを説明する数理モデル「反応閾値強化モデル」が提唱され、ワーカーがあるタスクを経験することで、そのタスクへの応答のしやすさを規定する内的なしきい値が変化し、そのタスクへ従事しやすくなることが説明されてきた。社会性昆虫における分業の再構築を考えた場合、ワーカーが不足したタスクを経験した際、反応しきい値が下降することでそのタスクに特殊化し、分業が再構築されることが考えられるという。
しかし、これまで多くの種でワーカーがタスクを切り替えられることは知られていたが、個体の経験がこのタスク切り替えに与える影響については多くの場合で不明であったという。そこで研究チームは今回、沖縄本島に生息する日本産トゲオオハリアリを用いた行動実験により、経験が反応しきい値に与える影響を厳密に調査することにしたという。