先行研究により、トゲオオハリアリでは外役ワーカーが内役へとタスクを切り替えることが知られていたが、今回の行動観察からは、内役ワーカーも外役へとタスクを切り替えることで、分業が再構築されることが判明したとする。
また、タスクの経験がワーカーのタスク切り替えに与える影響調査として、外役ワーカーで分業が再構築されたコロニーに、内役ワーカーで分業を再構築させた個体を導入(コロニーを融合する)して、19日間の飼育および観察を実施したとする。
事前の予想では、もし反応しきい値が直近のタスク経験によって変化する場合、外役から内役へとタスクに切り替えたワーカーおよび内役から外役に切り替えたワーカーは、コロニーを融合した後でも切り替えたタスクを継続すると考えられていた。
しかし、融合コロニーにおいて、外役から内役へとタスクを切り替えた(内役経験がある)ワーカーは、分業再構築後も外役を継続した(内役経験が無い)ワーカーと比べて内役を行うようになり、元のタスクである外役には戻らないことが確認されたという。
この結果について研究チームでは、外役ワーカーにおいて、直近に経験したタスクが反応しきい値を低下させたことが示唆されるものであるとする一方、内役から外役に切り替えた(外役経験がある)ワーカーは元のタスクである内役に戻ったことから、反応しきい値の変動が生じなかったことが示唆されたともしている。
また、トゲオオハリアリの若齢ワーカーは卵巣が発達する一方、老齢では産卵能力を失うことが知られていることから、通常は老齢である外役ワーカーは不足しているタスクを担い、コロニーの機能を維持することでのみ利益を得られることが予想されるとするほか、通常は若齢である内役ワーカーは自身での産卵が期待されることから、巣内に留まることで高い利益を得ることが考えられるとしており、元のタスク間で見られた経験の影響の違いが、ワーカー間で期待される利益の違いを反映している可能性があると説明している。
なお今回の研究成果について研究チームでは、この分業の維持における個体の経験の重要性が示されたとするほか、ワーカーの繁殖能力が反応しきい値の強化を調整する可能性が示唆されたとしており、このことは、反応しきい値の進化を考える上で、重要な新しい視点を提供するものだとする。そのため、今後は今回の研究をもとに、生理学的な反応しきい値の調節機構などを検証することで、さらなる分業メカニズムの理解の進展につながることが期待されるとしている。