「大韓民国の領土から宇宙への道が開かれました。これは30年にわたる困難への挑戦の結果です」――。
一部始終を見守ったユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領は、こう力強く宣言した。
韓国航空宇宙研究院(KARI)は2022年21日、新型国産ロケット「ヌリ号」の試験打ち上げに成功した。打ち上げは2回目で、成功は初めて。これにより韓国は、宇宙への自立した輸送能力を確保し、自主的な宇宙開発ができるようになった。
今後、2027年までに4回の打ち上げを行うほか、より大型のロケットの開発にも臨む。
ヌリ号
ヌリ号は韓国の新型国産ロケットで、KARIが中心となり、韓国航空宇宙産業やハンファ・エアロスペース、現代重工業など、300社を超える韓国の航空・宇宙メーカーの総力を結集して開発された。
ヌリ(Nuri)という名前は愛称で、正式には「KSLV-II (Korean Space Launch Vehicle-II)」と呼ばれている。ヌリの名は公募で選ばれたもので、韓国の古い言い回しで「世」、「世界」という意味をもつ。
機体の全長は47.2m、最大直径は3.5m。高度600~800kmの地球低軌道に約1.5tの打ち上げ能力をもち、小型~中型ロケットに分類される。
ロケットは3段式で、1段目に新開発の推力75tf級の大型エンジンを4基束ねて装着。第2段には同じ推力75tf級エンジンを、真空用の大きなノズルに改修したものを1基装着している。第3段には、推力7tf級の小型エンジンを装備する。75tf級エンジンも7tf級エンジンも、推進剤にケロシンと液体酸素を使い、エンジン・サイクル(動かす仕組み)にはガス・ジェネレイター・サイクルを採用している。
打ち上げは、韓国南部の全羅南道・高興にあるナロ宇宙センターから行われる。エンジンの試験なども同センターを拠点に行われた。
ヌリ号の開発は2010年3月から始まり、大きく3段階に分けて進められた。まず2010年3月から2015年7月までの第1段階では、ロケットの予備設計や7tf級エンジンの開発を実施。続いて2015年8月から2019年3月までの第2段階では、ロケットの詳細設計、そして75tf級エンジンの開発と地上燃焼試験を実施した。
他のロケット開発の例に漏れず、ヌリ号の開発においてもさまざまな困難が立ちふさがった。最大の障壁となったのは75tf級エンジンで、それまで韓国には大推力エンジンの開発経験がなかったこともあり、燃焼試験で燃焼振動や不安定現象が発生するなど難航。計画も遅れることとなった。
しかし、韓国の技術者は累計33基の試験用エンジンと、20回以上の設計変更し、そして184回、計1万8290秒間にもわたる徹底した燃焼試験を繰り返し行い、エンジンを完成させた。2018年11月28日には、75tf級エンジンの性能の検証や確認を目的とした試験ロケットの打ち上げにも成功。開発にさらに弾みがついた。
なお、同エンジンの開発にあたっては、韓国メディアで「ウクライナから推力30tf級エンジンを買った」とも報じられている。ただ、ウクライナには報じられたスペックに該当するエンジンは存在せず、厳密には技術協力が行われたのみであり、ウクライナ製エンジンをそのまま載せたというわけではなく、開発の主体も韓国側にあった。
第2段階と並行して、2018年4月からは第3段階がスタート。さらなる開発と、2回の試験打ち上げを行い、ヌリ号を完成させる計画となっている。
そして2021年10月21日、ヌリ号の試験機1号機の打ち上げを実施した。しかし、第3段の燃焼が計画より早期に止まり、地球をまわる軌道に乗ることはできなかった。その後の調査で、第3段の飛行中に内部のヘリウム・タンクが脱落し、その結果エンジンが早期に停止したと突き止められた。
その後、KARIは同タンクを中心に改修を加え、試験機2号機の打ち上げに挑んだ。
「大韓民国の領土から宇宙への道が開かれた」
ヌリ号の試験機2号機は、日本時間6月21日16時ちょうど(韓国時間同じ)、ナロ宇宙センターから離昇した。ロケットは順調に飛行し、第3段は軌道速度に到達。無事、地球をまわる軌道に乗った。
打ち上げから875秒後には、搭載していた性能検証用の小型衛星を分離。さらに打ち上げから945秒後にはダミー衛星を分離し、それぞれ所定の軌道に投入した。
性能検証用の衛星は質量162.5kgで、ヌリ号の軌道投入精度の確認を行うことを目的としている。打ち上げから42分後に同衛星からの通信に成功し、打ち上げ成功が裏付けられた。
同衛星にはまた、韓国で開発された宇宙用電池や制御モーメントジャイロ、S バンドアンテナも搭載しており、宇宙で動作検証も確認。運用期間は2年が予定されている。
さらに、韓国の複数の大学によって開発された4機のキューブサット(超小型衛星)も搭載しており、今後順次分離されることになっている。
ダミー衛星は質量1.3tで、打ち上げ能力の検証に用いられた。
5月10日に就任したばかりのユン・ソンニョル大統領は、ソウルのヨンサンに設けた大統領執務室から打ち上げを見守ったあと、「大韓民国の領土から宇宙への道が開かれました。これは30年にわたる困難への挑戦の結果です」と語った。
イ・ジョンホ(李宗昊)科学技術情報通信部長官は「この発射は歴史的に重要です。他国の発射場やロケットを借りることなく、いつでも宇宙に行くための足がかりができたのです」と語った。
また、「ヌリ号の開発で得た経験と技術をもとに、さらに性能を向上させたロケットの開発を推進し、韓国の衛星打ち上げ能力をさらに向上させます」と付け加えた。
キム・ギソク宇宙技術課長は「性能検証衛星の地上局との交信が成功しました。今後、キューブサットの射出および搭載体性能検証などがうまく進行できるよう最善の努力を尽くします」とコメントしている。