ヌリ号へ至る道とこれから

韓国のロケット開発は1990年ごろから始まり、1993年には単段式の固体観測ロケット「KSR-I」の打ち上げに成功した。1997年には2段式の固体観測ロケット「KSR-II」の打ち上げに成功。さらに2002年には、液体の観測ロケット「KSR-III」の打ち上げにも成功している。

こうした観測ロケットの改良、発展を続けたのち、2002年8月にロシアと共同で衛星打ち上げ用ロケット「KSLV-I」、愛称「ナロ号」の開発を決定する。ナロ号は第1段はロシア、第2段とフェアリングは韓国が開発、製造を担当した小型ロケットで、2009年と2010年に打ち上げに失敗したのち、2013年の3号機で初めて打ち上げに成功した。

韓国は当初、この共同開発を通じて、ロシアからロケット技術を習得する狙いで、ナロ号の発展計画ももっていた。しかし、ロシア側は単にロケットの完成品を売り込むことだけを考えていた。やがて両者の温度差は決定的なものとなり、3号機の打ち上げ成功をもって共同開発は幕を閉じることとなった。

ヌリ号の開発は、こうしたロシアとの齟齬が生まれ、ナロ号の発展が見込めなくなった2010年に始まった。もともと韓国は、ロシアとの共同開発がうまくいかなかった場合の「プランB」として、2003年から独自にエンジンの研究・開発を続けており、まさにその備えが功を奏した結果となった。

今回のヌリ号の打ち上げ成功により、韓国は宇宙への自立した輸送能力を確保し、自主的な宇宙開発ができるようになった。「宇宙強国」を目指す韓国にとっては大きな一歩になったことは間違いない。

KARIは2023年にも3号機の打ち上げを予定。この3号機では、Xバンドの合成開口レーダーを積んだ「次世代小型衛星2号(NEXTSat-2)」を打ち上げる予定で、ヌリ号にとって初めて実用的な衛星の打ち上げとなる。

この3号機を含め、KARIは2027年までにヌリ号を4回打ち上げることを計画している。また、いずれは運用をハンファ・エアロスペースに移管し、商業打ち上げ(企業などから受注してビジネスとして行うロケットの打ち上げ)市場に参入することも計画されている。

韓国はかねてより、小型衛星の分野では高い技術をもち、アラブ首長国連邦などへ輸出実績もある。近年も、官民挙げて次世代衛星の開発に力を入れており、次世代小型衛星や次世代中型衛星などを生み出し続けている。

質量1t前後の小型衛星は、ヌリ号による打ち上げにとって最適でもあり、こうした衛星の打ち上げや、それを使ったビジネスにも弾みがつく可能性がある。

KARIはまた、ヌリ号の後継機となる新型ロケットの開発も計画している。暫定的に「KSLV-III」と呼ばれているこのロケットは、静止衛星を打ち上げるための静止トランスファー軌道に3.5tの打ち上げ能力をもつ。

第1段には新開発の推力100tf級エンジンを5基装備。また、固体ロケット・ブースターを装備して打ち上げ能力を向上させたり、第1段機体を回収して再使用したりといった新しい技術も採用するとしている。

推力100tエンジンは、ヌリ号のエンジンよりも高い性能を発揮できる二段燃焼サイクルと呼ばれる仕組みを採用する。すでに要素試験も始まっている。

なお、同サイクルはナロ号に使われていたロシア製エンジンと同じであり、またロシアは韓国にナロ号の地上試験機を置き土産として残していったこともあり、同エンジンの開発にあたっては、ロシアの技術を参考にするものと考えられる。

初打ち上げは2030年代に予定されており、月着陸機や韓国型測位システム「KSP」の衛星などを打ち上げることが計画されている。

  • 打ち上げを待つヌリ号

    打ち上げを待つヌリ号 (C) KARI

韓国のロケット開発の今後

韓国の宇宙開発、とくにロケットをめぐっては、主に打ち上げ場所とコストの問題が課題として存在する。

ヌリ号を打ち上げるナロ宇宙センターは、北には韓国の市街地が、また東側には日本があるため、南の方向にしか打ち上げることができない。地球観測衛星や偵察衛星などの極軌道衛星を打ち上げる場合には問題にはならないが、静止衛星などを打ち上げることは事実上不可能である。これは韓国全土に共通するため、少なくとも国内には、より良い場所はない。

したがって、静止衛星などを打ち上げる場合は、ヌリ号を使わずに他国に委託するか、他国に発射場を建設する、もしくは船で海上から打ち上げる技術を開発する必要がある。

また、欧州の「ヴェガ/ヴェガC」、インドの「PSLV」、日本の「イプシロン」など、他国にはヌリ号とほぼ同じ、小型衛星の打ち上げに適した性能のロケットがすでに存在する。ファルコン9などの大型ロケットも小型衛星をまとめての打ち上げに対応しているほか、さらに宇宙ベンチャーを中心に新型の小型ロケットの開発も活発に行われている。

こうした中で、ヌリ号が商業打ち上げで存在感を発揮するためには、前述の打ち上げ場所の問題を解決するとともに、打ち上げの低コスト化、あるいは高い信頼性など、他のロケットにはない付加価値や強みをつけることが求められよう。

初めて国産開発したロケットが、わずか2機目で成功したことは、宇宙開発史に残る偉業であり、韓国にとってロケット技術がたしかなものになりつつあることを示している。それを着実に育て、ヌリ号のさらなる打ち上げ成功、信頼性の確立や低コスト化、そしてKSLV-IIIの開発へとつなげることができるか。いよいよ自らの手で宇宙の大海へ漕ぎ出した韓国の、新たな挑戦が始まった。

  • 打ち上げられたヌリ号

    打ち上げられたヌリ号 (C) KARI

参考文献

[ home > R&D > Space Launch Vehicle > Nuri, the Korean launch vehicle ]
Korea becomes 7th nation to independently launch satellite into space
https://www.kari.re.kr/kor/sub030401.do