文部科学省傘下の科学技術振興機構(JST)は2022年6月23日に、JST理事長記者会見を開催し、JSTの戦略的創造研究推進事業として推進しているERATOプロジェクトの1つである「水島細胞内分解ダイナミクス」プロジェクトの研究開発内容や進捗などを同プロジェクトの研究統括を務める、東京大学大学院医学系研究科の水島昇教授が解説した。

  • 研究総括を務める水島昇東京大学大学院医学系研究科の水島昇教授

    研究総括を務める、東京大学大学院医学系研究科の水島昇教授

同プロジェクトは2016年12月に東京工業大学の大隈良典特任教授が「オートファジーの研究成果」を基にノーベル生理学・医学賞を受賞したのを契機に※1、2017年度からERATOとして始めたプロジェクトになる。ERATOは、JSTが実施する戦略的創造研究推進事業におけるプログラムの1つだ。

  • 2016年12月に「オートファジーの研究成果」を基にノーベル生理学・医学賞を受賞した東京工業大学の大隈良典特任教授

    2016年12月に「オートファジーの研究成果」を基にノーベル生理学・医学賞を受賞した東京工業大学の大隈良典特任教授(出典:東京工業大学)

“オートファジー”とは細胞質内の一部が膜で囲まれたオートファゴソームをつくり、そのオートファゴソーム表面にリソソームという多種類の分解酵素を含む小器官が結合し融合すると、オートファゴソーム内のタンパク質がアミノ酸などに分解される現象だ。

大隈教授は自然科学研究機構の基礎生物学研究所などで、この“オートファジー”現象の解明を始めた。当時は内科医だった水島昇氏は、この研究に興味を持ち、30歳ごろに医学系の基礎研究者に転身し、大隈教授研究室の助手となり、オートファジー現象の解明に励んだ。「当時は、光学式顕微鏡などで、“オートファジー”現象の実態を観察することが多かった」という。

水島教授は2006年に東京医科歯科大学の教授に就任、2012年には東京大学大学院医学系研究科の教授となり、2017年からJSTのERATOの水島細胞内分解ダイナミクスプロジェクトの研究総括としてオートファジーの本質を研究・解明し続けている。

大隈教授がオートファジーの研究成果で2016年12月にノーベル賞を受賞したあたりから、世界各国でのオートファジー研究が盛んになり、オートファジー関連論文は、1年間当たり4000台から増え続け、2020年、2021年には約1万1000部まで急増化している。

この中では「日本の大学・研究機関からの当該論文数は100部から200部と比率は少ないのが実情だ」と水島教授は解説する。しかし「日本の論文数の絶対数は少ないが、被引用率では、かなり多く、研究成果の中身があることが特徴になっている」と、水島教授は指摘する。

まだ解明途中であるオートファジーの研究成果の現状を総括すると「分子機構では達成度は50%ぐらいで、オートファゴソームの形成部位や膜の由来、伸長・閉鎖・融合機構などの膜動態に関する課題を解明中だ」と、水島教授は説明する。「これからは、物理系や分子進化などの新しい研究アプローチが必要になる」と、新しい研究開発手法の適用を力説する。

そして「生理機能面では達成度は60%ぐらいで、オートファジー以外の分解系の機能や機構(メカニズム)はまだ不明な部分が多い」という。さらに「測定技術面では達成度は30%ぐらいで、解明対象が酵母では定量系測定系は確立したといえるが、培養動物細胞・病理標本では対象が複雑で、測定系はあまり安定していない段階だ。人間などの治療・制御に関しては、達成度はまだ5%ぐらい。研究開発は多数進行中だがまだ確立までには時間がかかりそう」と現状について解説した。

JSTは戦略的創造研究推進事業のCRESTの中で、構造生命科学と先端的基盤技術「オートファジーの膜動態解明を志向した構造生命科学」を研究代表者は微生物化学研究所の野田展生部長(2013年度から2020年度まで)を研究代表者として実施するなど、多面的な研究開発手法によってオートファジー研究開発を支えている。

参考文献

※1:2016年12月に東京工業大学の大隈良典栄誉教授授は「オートファジーの研究成果」を基にノーベル生理学・医学賞を受賞した。東工大は、このノーベル生理学・医学賞の受賞を契機に、2018年7月に東工大は若手研究者を育成する場として、基礎研究機構を設けた。