文部科学省傘下の科学技術振興機構(JST)は2022年6月16日、「ムーンショット型研究開発事業8 2050年の気象制御の実現に向けて」が目指す研究開発内容を解説するWeb講演会を開催した※1

ムーンショット目標8は、2050年までに気象現象を人工的に制御し、近年に日本各地で起こっている大型台風や線状降水帯などによる豪雨などの“極端風水害”などを防ぐまたは軽減する“気象制御”の技術開発を目指す、かなり挑戦的な内容の研究開発プロジェクトである。

  • ムーンショット目標8の実現に必要な研究開発の主な分野・領域

    ムーンショット目標8の実現に必要な研究開発の主な分野・領域(出典:JST、内閣府)

  • ムーンショット目標8の研究開発スケジュール

    ムーンショット目標8の研究開発スケジュール(出典:JST、内閣府)

講演会では、同プロジェクトのプログラムディレクター(PD)を務めている理化学研究所の三好建正チームリーダーがプロジェクト全体の概要を説明。プロジェクト内の各テーマのプロジェクマネージャー(PM)がそれぞれの研究開発目標・戦略などを解説した。

PMは、それぞれの研究開発目標・戦略を提案し、2022年3月末までにそのプロジェクト内容が採用され、正式に着任したメンバーとなる。

まず、東京大学大学院工学系研究科の澤田洋平准教授がPMを務める「社会的意思決定を支援する気象-社会結合系の制御理論」プロジェクトが進める内容を解説した。

大型台風などの気象現象を制御するというこれまでにない行動を進めるには、気象現象を制御するということの社会的な意味合いについて国民のコンセンサスを得る必要がある。台風の進路を単純に変えただけでは、被害地域を変えただけに見える可能性があり、全体として、被害低減を図る社会的なコンセンサスを得る仕組みなどを進める必要があるとし、同研究の意義を解説した。

そして「極端な風水害が引き起こす多種多様な社会インパクトを統合的に予測するImpact-based Forecastingの技術開発を始める」と続けた。

PMの一人である横浜国立大学先端科学高等研究院の台風科学技術研究センター長の筆保弘徳教授は、今回始める「ムーンショット型研究開発事業8」の担当プロジェクトを実施するために、まず「台風科学技術研究センターを新設した※2」と伝えたうえで、「航空機や船舶、衛星などによる高精度な気象観測と、台風内部まで再現する高度な数値モデルの開発を行い、これらを基に台風の制御理論の確立を図る。そして災害予測とその影響評価を行い、台風制御の社会的受容性と合意形成の問題に取り組む」と解説した。

京都大学防災研究所の山口弘誠准教授は、PMの一人として「ゲリラ豪雨・線状対流系豪雨と共に生きる気象制御」プロジェクトを担当すると説明し「都市部の改変によって着実に人間活動由来による豪雨発生を削減し、気候変動適応策として気流渦・熱、水蒸気流入・収束、雲粒子形成などの“豪雨のタネ”を操作することによって、豪雨を発生しにくくする実時間制御の実現を目指す」と解説した。

なお各PMはそれぞれに、気象現象の高精度な制御を始めるためには、現時点で小学生や中学生などの若い人材に、気象現象を説明・解説し「気象現象の高精度な制御をする意義の教育体制の構築なども重要な動きになる」と解説した。

筆者注

※1:内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)は、日本発の挑戦的な破壊的イノベーションの創出を目指し、従来技術の延長にないかなり大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発を実現させる「ムーンショット型研究開発事業」を計画してきた。その中で、今回は“気象制御”技術開発を目指す「ムーンショット型研究開発事業8」を開始することを広く公表する目的で、このWeb講演会が開催された。
※2:横浜国立大学は2021年10月1日、先端科学高等研究院に台風科学技術研究センターを新たに設立したことを発表している。