働き方改革の名の下に就業環境改革を進めたが、果たして生産性は向上したのか。その答えに窮する企業は少なくないだろう。企業にとって最も重要な「人」が働く場の期待値を高めるためにはどのような視点を持てば良いのか、課題は何なのか――5月26日、TECH+セミナー「オフィスの在り方を再考する Day 2022 May. オフィスが向かう未来を再定義する」で、エイチ・ピィ・ピィ・ティ 代表取締役の坂本裕司氏が講演した。

多くの人が誤解しがちな“生産性”

人的資産(無形資産)の価値測定を研究テーマとする坂本氏はまず、「現代社会では、人の生産性に関して誤解がある」と切り出した。

同氏は、頭打ちの日本のGDP、円安傾向の為替レート、ここ20年ほとんど変化していない実質賃金上昇率と日本の経済状況を示す3つのデータを示し、「現場では、働く場の分散、RPA (Robotic Process Automation)の導入、AI活用、ワークライフバランスの追求といった就業環境の改善を進めているが、経済的な成長にはつながっていない」と指摘する。

バブル崩壊前は、効“率”性向上により業務を楽にすることがコストダウン、そしてビジネスのスピードアップにつながり、これが経済を成長に導いていた。しかし、現在は「”良いものを安く早く”から、”良いものは高い”の発想でビジネスをしなければ、どんどん苦しくなる」(坂本氏)時代だという。そのため、効“果”性向上による生産性を上げ、賃上げが可能な状態を作れるよう就業環境の改善を行う必要がある。それを怠ると、「業務は楽にはなるが経済成長には結びつかない生産性向上活動が継続してしまう」のだ。

鍵を握るのは「創造的業務」

では、就業環境の改善を生産性の向上につなげるために、どこに着眼すべきか?

坂本氏は、ホワイトカラーの業務を「処理的業務」「コミュニケーション業務」「創造的業務」の3つに大別する。

処理的業務とは個人で推進する標準プロセスや標準時間に従ってアウトプット(標準的成果物)を作成する業務で、現在では少しずつRPAなどに置き換わりつつある部分だ。コミュニケーション業務とは、上司や同僚、取引先や顧客など複数人で推進する情報共有業務を指し、業務量の大半を占めていると思われる。これらは投入時間の低減や最適化を目標とする効“率”性向上の生産性に分類される。そして創造的業務は、標準がなく、企業の戦略に応じて思考テーマが設定され、個人で推進する知的業務のことであり、そのアウトプット(知的成果物)は人の経験や知識、実績などによっても左右される。これは効“果”性向上の生産性に分類される。この創造的業務こそ「これからの生産性向上を考える上で重要」だというのが同氏の提示だ。

「創造的業務の生産性向上を実現することで賃上げに期待ができると、経済成長の入り口に立てるのではないでしょうか」(坂本氏)

処理的業務とコミュニケーション業務は競争劣位を解消するもので、現在は創造的業務こそが競争優位の創造につながる。これは、モノづくりからコトづくりへの流れとも重なる。このような着眼点に基づくと、どのような課題が見えてくるのだろう。

業務改善の順序で言えば、処理的業務、コミュニケーション業務の改善に取り組むと、「時間」という経営資源の余力を回収できているはずだ。にもかかわらず、それが経済成長に結び付いていないということは、「時間の再投入先業務を間違えているか、時間を蒸発させているか」だと坂本氏は言う。

加えて、「これからの時代は、『創造的業務に対してどれだけの時間を使いたいから、処理的業務とコミュニケーション業務を改善して時間をこれぐらい回収しよう』というありたい就業環境のイメージをデザインしてから進める必要がある」と説明する。これにより、処理的、コミュニケーション、創造的の3種類の業務を中心としたサイクルがうまく回るというわけだ。

  • 各業務を中心としたサイクルのイメージ図

また、坂本氏曰く「処理的業務、コミュニケーション業務が働き方改革につながるものだとすれば、創造的業務は働きがい改革につながるもの」だという。つまり、両者は別物であり、両方に働きかける必要があるのだ。