東京工業大学(東工大)は6月13日、5GならびにBeyond 5Gに向けて、ミリ波帯をより有効活用できる「フェーズドアレイ無線機」を開発したことを発表した。

同成果は、東工大 工学院 電気電子系の岡田健一教授、NECの共同研究チームによるもの。詳細は、米国ハワイ州ホノルル現地時間6月13日から開催される国際会議「2022 IEEE Symposium on VLSI Technology and Circuits(VLSIシンポジウム)」にて発表される予定だという。

現在、通信容量が指数関数的に増加していることを受け、次世代のBeyond 5Gに向けては、従来のマイクロ波帯ではなく、ミリ波帯を活用することで、高速大容量の無線通信の実現が模索されている。

現行の5Gにおけるミリ波帯通信では、アナログビームフォーミングによって空間的な多重化を行い、無線資源の有効活用が図られており、そのビームフォーミング機能はフェーズドアレイアンテナシステムによって実現されるが、そのためには、必要な機能素子を高密度に集積させ、低消費電力技術を駆使して高エネルギー効率のミリ波帯高集積半導体ICを実現することが重要とされている。

また、さらなる大容量通信の実現のために、より広い周波数帯域を持つ39GHz帯などの利用が期待されているが、より高い周波数帯での低消費電力・高エネルギー効率ミリ波帯高集積半導体ICの実現が課題とされていた。

従来のマイクロ波帯基地局装置では、低消費電力化のために高効率の増幅器回路技術「ドハティ方式」と、高効率とトレードオフ関係にある信号品質を改善する「デジタル歪補償(DPD)技術」が用いられており、研究チームは今回、これらの技術を基地局用ミリ波帯フェーズドアレイ無線機に適用することに挑んだとする。

2つの増幅器を用いるドハティ型増幅器は回路面積が大きいため、小面積のミリ波帯ICに集積するのが困難とされていたことから、今回の研究では、送信と受信を同じ増幅器で行う独自の双方向性ドハティ型増幅器回路を考案することで小型集積を実現したとする。

また、フェーズドアレイ無線機にDPDを適用する場合、複数のアンテナ素子経路に対して共通の信号補正が行われるため、経路間に特性のばらつきがあると信号品質の向上が制限されるという課題があったことから、今回の研究では、ICにセルフテスト回路を内蔵させ、しきい値電圧のばらつきや利得および位相オフセットのばらつきを検出することで、素子間の特性ずれを補正してからDPDを適用することで、信号品質の向上を実現したという。