情報通信研究機構(NICT)、日本無線(JRC)、スカパーJSAT、東京大学の4者は6月9日、欧州側のパートナー機関の欧州宇宙機関(ESA)、Eurescom、Fraunhofer FOKUS Instituteと協力し、2022年1月から2月にかけて静止衛星回線を含む衛星5G統合制御に関する日欧共同実験を行い、日欧の国際間長距離5Gネットワークにおいて5G制御信号、4K映像およびIoTデータの伝送に成功したことを発表した。
今回の実験は、NICTが実施する委託研究「Beyond 5Gにおける衛星-地上統合技術の研究開発」の一環として行われた。
5G/Beyond 5Gでは、拡張性・広域性という観点から「非地上系ネットワーク」(NTN)が注目されている。NTNとは、衛星、高高度通信プラットフォーム(HAPS)、ドローンなどの多様な通信プラットフォームを介して、海、空、宇宙などを相互に接続するシステムのことだ。さらに、NTNと地上系の5G/Beyond 5Gを接続することで、ユーザはどこにいても通信することが可能となる。3GPPでも、NTNと5Gの連携に向けた標準化に関する検討が進められており、従来のユースケースにおける性能向上や、新しいユースケースの実現が期待されている。
このような背景から、NICTとESAは2018年および2020年に趣意合意書を締結および更新。航空機などのグローバルな移動を含む通信や国際ローミングなど、国際間長距離通信を含む5G/Beyond 5Gの実現に寄与するため、衛星回線と5Gを長距離ネットワークで結ぶことを目的とした日欧共同実験計画が進められてきた。
各機関が協力し、日欧間の長距離ネットワークにおいてKuバンド衛星(12GHz/14GHz帯の周波数)、ローカル5Gシステム、NICTが運用する超高速研究開発ネットワークテストベッド「JGN」などを相互に接続し、日欧共同実験のためのテストベッドが構築された。
今回の実験では、将来の国際間長距離通信での活用を念頭に、遠隔地で撮影した映像コンテンツや収集したモニタリングデータを送るというユースケースを想定し、4K映像伝送およびIoTデータ伝送の基礎実験がテストベッドを利用して行われ、伝送は無事成功した。
実験では、衛星回線と日欧間地上回線を含む長距離伝送による遅延等の影響下において、日本に配置した5G対応ゲートウェイのCPEと、欧州に配置した5Gコア間でやり取りされる5G制御信号で通信セッションが確立できること、日本側の4KカメラおよびIoTセンサで取得したデータを欧州側のPCおよびデータサーバへ伝送できることなどが明らかにされた。
また、各伝送区間のネットワーク品質が測定され、衛星回線と5Gを接続したネットワーク性能の評価も行われた。今回の実験の結果により、具体的なアプリケーション伝送の観点からも、国際間長距離通信を介した5Gネットワークにおける衛星回線の統合が実現できることが確認できたとする。今回得られた技術を活用することで、5Gネットワークのカバレッジを拡張し、衛星回線を含むグローバルな5G/Beyond 5Gネットワークの構築に寄与することが期待されるとしている。
なお4者の役割分担は以下の通りだ。
JRC
- 4K映像とIoTデータおよび5G制御信号に対する最適なモデムの選定
- VSAT局とゲートウェイ局の構築と運用
- IoTデータ伝送試験の実施
スカパーJSAT
- 東経144度の静止衛星「Superbird-C2」によるKuバンド衛星回線の提供
- 遅延などネットワーク性能の評価
- 4K映像伝送試験の実施
東大
- ローカル5Gソフトウェア基地局の構築
- 日欧共同実験のテストベッドの構築
NICT
- ESAとの日欧共同実験の枠組みの設定
- 日欧共同実験のテストベッドの構築(5GコアソフトウェアおよびgNB整備)
- 今回の実験に関する技術的サポート
JRC、スカパーJSAT、東大は、国境を越えて欧州と相互協力し、Beyond 5Gにおいて地上と衛星のシームレスな統合に必要な技術の確立を引き続き目指していくとしている。
またNICTは、日欧の国際連携を引き続き推進し、今回の実験の成果である5Gネットワークによる衛星と地上の連携技術を活用することで、衛星やHAPS、ドローンなど複数のノード間を有機的に接続する技術の開発や、地上から海、空、宇宙までを多層的につなぐ3次元ネットワークの実現につなげていくとした。これにより、あらゆるエリアへの通信を可能にし、多様なコミュニケーションの実現を推進していくとしている。