三角格子反強磁性体とは、磁性イオンが三角形の格子に位置して、隣り合う磁性イオンのスピンを反平行にする相互作用(反強磁性的相互作用)を持った磁性体のことで、カイラル(キラル)とはカイラリティ(キラリティ)のことで、三角格子面のスピン配置が次の面に移る際に少しずつ右回り、あるいは左回りにらせんを描くような掌性(右手左手のように、構造的には同じだが鏡像と一致しない関係)を有していることを示す。

そして調査の結果、CsCuCl3の磁場・圧力下における多彩な磁気相を発見することに成功したとする。

さらに、30T以上の強磁場下においてはじめて観測できる飽和磁場の圧力依存性が明らかにされたとのことで、このことから、数値計算結果との比較が可能となり、磁場・圧力下で見られる磁気相の発現機構について実験・理論の相補的研究によって検証することもできたと研究チームでは説明する。

  • CsCuCl3の磁場-圧力相図

    CsCuCl3の磁場-圧力相図。飽和磁場は、圧力増加に伴い高磁場側に移動し、最高圧力1.7GPaで40Tまで到達 (出所:広島大Webサイト)

なお、今回開発された複合極限環境下の測定技術は、今回の研究対象物質以外の磁性体の研究にも応用することで、今後の物性研究の発展に大きな役割を果たすことが期待されるという。

また、従来の大半の磁性研究において、磁場と温度を外場とした磁場-温度相図基軸として行われてきたとする一方で、今回の研究で明らかにされた三角格子反強磁性体の磁場-圧力相図は、温度-磁場-圧力空間に3次元的に広がる物質相を多角的に探索することの重要性が指摘されたことから、画期的な研究成果といえるとしている。

さらに、近年、フラストレーションとトポロジーに起因して、あたかも素粒子のような振る舞いを示すスキルミオンなど、次世代のスピントロニクスの鍵となる特異な物質相に注目が集まっており、今回の研究で確立した高圧力-強磁場下磁化測定技術は、そのような新奇物質相の探索するための新しいツールとして期待されるともしている。