東京大学(東大)は、複数の二次元のアモルファス固体の分子動力学シミュレーションにより、アモルファス物質の過剰な振動状態「ボゾンピーク」の起源が、有限の長さの一次元的なひも状の粒子群の協同的な振動に起因していることを発見したと発表した。
同成果は、東大の田中肇名誉教授(東大 先端科学技術研究センター シニアプログラムアドバイザー(特任研究員))、東大 生産技術研究所のフー・ユアンチャオ日本学術振興会 外国人特別研究員(現・米イェール大学研究員)らの研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の物理学全般を扱う学術誌「Nature Physics」に掲載された。
結晶とアモルファス物質では、低音において大きく異なる熱物性を有する。結晶の場合は、デバイ理論によって説明される、協同的な熱振動である「フォノン」がある。そしてアモルファス物質には、その種類によらない普遍性として、異常性があることがわかっている。
アモルファス状態の振動状態密度をデバイ理論の予測と比べると、ボゾンピークとして知られる、ある周波数で最大となる過剰な振動状態密度が存在している。そして、それこそがアモルファス物質の低温における比熱や熱伝導特性が結晶とは大きく異なる原因となっていると指摘されている。つまり、最大の問題はボゾンピークの起源は何かということになる。
ところが、アモルファス物質の構造が規則性を持たないため、解析的なアプローチが極めて困難だという。それ故、これまでさまざまな説が提案されてきたものの、いまだコンセンサスはなく、固体物理学における、長年にわたって重大な未解明問題とされ続けてきたという。
そこで研究チームは今回、複数の二次元のアモルファス固体の分子動力学シミュレーションにより、ガラス状態の振動状態を体積変化を伴う振動と、伴わない振動とに分けた上で詳細に解析することにしたという。
その結果、ボゾンピークの周波数付近に振動周波数を持つ体積変化を伴わない過剰な振動状態が存在することが発見されたとするほか、その起源が、有限の長さの一次元的なひも状の粒子群の協同的な振動に起因していることが見出されたとする。また、複数の二次元ガラス系にこのような振動モードが普遍的に存在することが示されたともする。
これまでは、ボゾンピークとして知られる過剰な振動状態密度は、アモルファス物質の硬さが空間的に不均一であることによるフォノンの散乱によるという説が有力と考えられてきた。しかし今回の発見は、そうした従来説を明確に否定するとともに、新しい物理的機構を提案するものとなったという。
またこの結果は、研究チームが2008年に見出したボゾンピークの周波数が、横波音波が波として伝播できなくなる限界周波数(イオフェ・レーゲル周波数)と一致するという発見にも明確な理由を与える結果ともしている。
なお、これまで、このような空間的にある程度の広がりを持った協同的な振動(準局在振動)は、アモルファス状態のある種の欠陥に由来したものと考えられてきたという。このタイプの振動が、振動の際に体積変化を伴うのに対し、今回発見された一次元的な振動は、振動に際し体積変化を伴わないことが見出されたことから、今回の発見は、従来知られていなかったまったく別のタイプの準局在振動モードが、アモルファス物質に普遍的に存在することを示すものとなるという。
そのため、今回の成果について研究チームでは、結晶とは大きく異なるアモルファス物質の低温における比熱や熱伝導度といった物性の基礎的な理解に対し、大きく貢献することが期待されるとしているほか、応用面として、アモルファス物質の振動状態を制御することで、熱物性の制御が可能になることが期待されるとしている。