東京大学 生産技術研究所(東大生研)は、結晶から結晶への転移現象(結晶・結晶転移)が、どのような条件下で、またどのような機構で起きるのかを明らかにすべく、荷電コロイド分散系を用いてその過程を粒子レベルで観察した結果、親結晶が十分柔らかい場合には温度の変化により自発的に転移が進行する様式が存在することを発見したと発表した。

同成果は、東大生研の田中肇 名誉教授(研究当時:東大生産技術研究所教授、現在:東大 生研 シニア協力員兼東大 先端科学技術研究センター シニアプログラムアドバイザー)、中国・復旦大学のタン・ペン准教授、同・リー・ミンフアン大学院生、同・ユエ・ゼンギュアン大学院生、同・チェン・ヤンシャン大学院生、中国科学技術大学のトン・フア准教授(研究当時:東大生研 特任研究員)らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

通常、鉄などの硬い結晶における固体・固体転移(マンテルサイト変態)は、巨大なひずみエネルギーを必要とするため、外部からの強い力などを受け、既存の欠陥を起点として起こると考えられてきたが、結晶・結晶転移に伴うひずみエネルギーが「界面自由エネルギー」と同程度であるようなソフトな結晶において、どの程度までこのような様式が保持されるのか、あるいは外力なしの条件下で、温度の変化などによる自発的な転移の実現が可能なのかについては、これまでほとんどわかっていなかったという。

こうした謎の解明に向け研究チームは今回、大きさがマイクロメートルスケールの荷電コロイドの粒子を原子と見立てる方法を採用。その分散系を用いて、面心立方格子(fcc)から体心立方格子(bcc)への転移を摂動を与えることなく引き起こし、その場で一粒子レベルの3次元実時間観察を実施したという。

その結果、従来知られていたマルテンサイト変態の様式に加え、親結晶が十分柔らかい場合には温度の変化などにより自発的に転移が進行する様式が存在することが発見されたとする。

この一様な結晶の領域内で熱的に誘起される転移の場合、結晶が十分柔らかく、親結晶の融点を超えない温度においても機械的に不安定化する状態が実現される。そのため、粒子の拡散による再配置を伴うことなく、機械的に1つの結晶からほかの結晶への転移が進行することが可能となるという。

  • 結晶転移

    面心立方格子結晶(青い粒子)中に自発的に形成された体心立方格子結晶(赤い粒子)と界面(緑の粒子) (出所:東大生研プレスリリースPDF)

また、この機構が実現されるためには、結晶全体が融解する前に、温度上昇によって粒界が前駆的に融解すればよく、さまざまな物質において重要な過程であると考えられるとしており、ソフトな系以外でも、高温に三重点を持つ物質においては、このような転移様式が見られると予想されるとする。

さらに、異物質との接触面を起点にした結晶成長に誘起された結晶・結晶転移も、結晶間界面エネルギーが小さいことが不可欠という意味で、結晶粒界の融解を伴う転移に類似していることから、この様式もソフトな系に限らずさまざまな物質で見られる可能性があるとしている。

なお、研究チームでは、ソフトなコロイド結晶で発見されたこれらの3つの結晶・結晶転移の新たな様式が、固体・固体転移の物理的メカニズムの理論的理解を深めるとともに、拡散を伴わない結晶・結晶変換制御の新たな道を開き、固体薬品の結晶多形の制御など、さまざまな材料の結晶制御に広く応用されると期待されるとしている。