具体的には、粉砕し粉末状にしたシリコンウェハと触媒量のフッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)をCO2雰囲気下において混合し、150℃で加熱することでCO2が消費され、ギ酸が生成されることが確認されたという。ギ酸の収率は最高で68%に達しており、反応容器に投入したCO2の7割弱がギ酸へと転換したことになる。

  • ケイ素粉末からギ酸とメタノールが合成

    今回の研究では、TBAF触媒を用いてCO2とケイ素粉末からギ酸とメタノールが合成 (出所:プレスリリースPDF)

また、反応条件を検討することで、CO2から最高で20マイクロモルのメタノールを合成することにも成功したという。これらの反応はTBAFを添加しないとまったく進行せず、フッ化物が重要な触媒となることが示されたとする。

金属ケイ素をCO2と反応させてCO2を還元する先行研究では、いずれも特別に調製されたシリコンナノ粒子を用いる必要があったほか、シリコン表面を活性化するために、シリコン重量に対して37~2.2倍の猛毒であるフッ化水素(HF)を加える必要もあったとする。それに対して今回の方法では、廃棄するシリコンウェハを利用でき、HFの代わりに利用する安定なフッ化物塩の量もシリコン重量当たりフッ素基準で0.7%以下となっている。

さらに生成されたギ酸やメタノールがCO2の炭素由来であることを確認するため、同位体13Cで置換した13CO2を用いて触媒反応が行われたところ、生成されたギ酸やメタノールに同位体13Cが含まれていることが観測され、投入されたCO2が確実に有機物へと変化していることが確かめられたとする。

  • 今回の研究と従来手法との比較

    (上)今回の研究と従来手法との比較。(下)安定同位体13Cを用いるギ酸の炭素原子の由来を確認する実験 (出所:プレスリリースPDF)

加えて触媒反応終了後に固体残渣を回収し、X線光電子分光とX線回折測定を行ったところ、投入された金属ケイ素が酸化されていることが確認できたとするほか、残渣の表面にSi-F結合が形成されていることも判明。TBAFのフッ化物イオンがケイ素原子と反応することで金属ケイ素表面が活性化され、CO2をギ酸へと還元するヒドリド種(Si-H)が中間体として生成するメカニズムが推定されるという。

今後は、CO2からの化成品合成と、ケイ素の循環プロセスとを組み合わせることを目指すと研究チームでは説明している。今回の触媒反応は、カーボンニュートラル社会の構築に向けたCO2の有効利用に貢献するだけでなく、廃棄される太陽光パネルの有価値なリサイクル方法の1つとなる可能性があるとする。

なお今回の研究では、太陽光パネル製造工程での廃棄シリコンウェハが用いられたが、太陽光パネルの有価値リサイクルにさらに貢献するには、実際に使用済みの太陽光パネルから回収されるシリコンセルの活用へ展開する必要があるという。そのため研究チームでは、CO2の削減・資源化と、廃棄太陽光パネル問題の両方を解決する新たな触媒反応として、今回の研究成果を展開していくとしている。

  • 提案された未来の資源循環プロセス

    (A)提案された未来の資源循環プロセス。(B)太陽光パネル廃棄の現状 (出所:プレスリリースPDF)