立命館大学は5月27日、1933名のアスリートに実施した疫学調査から、約90%のアスリート(1751名)が安静時に非効率的呼吸パターン(胸式呼吸)を有していることを明らかにしたと発表した。
同成果は、立命館大 スポーツ健康科学部の下澤結花助手、同・寺田昌史講師、同・杉山敬特任助教、同・伊坂忠夫教授、同・総合科学技術研究機構の栗原俊之准教授、同・菅唯志准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、応用運動科学を通じたコンディショニングとスポーツに関する全般を扱う学術誌「Journal of Strength and Conditioning Research」に掲載された。
近年、安静時の非効率的呼吸パターンなどを含む呼吸機能不全は、腰痛症などの筋骨格系疾患の関連要因であることが報告されるようになってきたという。また、呼吸機能は運動機能や動作パターン、精神的・心理的状態と密接に関係することも報告されるようになっている。
適切な呼吸パターンの獲得は、心身の緊張とリラックスのバランスを整え、運動パフォーマンスの向上および心身への負荷を軽減することにつながる入り口と考えられている。そのため、アスリートの身体的・精神的な健康の維持に関して、呼吸機能の重要性が注目されているという。
これまで、喘息などの呼吸器系疾患を有する患者における非効率的呼吸パターンの割合は報告されているが、アスリートにおける呼吸パターンの評価を検討した研究は多くはないことから、今回、研究チームでは、安静呼吸時の呼吸パターン評価法である「Hi-Loテスト」を用いて、アスリートにおける非効率的呼吸パターンと効率的呼吸パターンの割合についての調査をすることにしたという。
具体的には、さまざまな競技・年齢層・地域のアスリート1933名を対象とし、Hi-Loテストを用いて安静時の呼吸パターンの評価が実施された。Hi-Loテストでは、立位姿勢の対象者の右手を胸部に左手を腹部に置き、安静呼吸中の胸部および腹部に置かれている手の動きを視診することで、呼吸パターンの評価が行われた。
評価の結果、アスリートの呼吸パターンが効率的呼吸パターンと非効率的呼吸パターンに分類され、効率的パターンを有するアスリートは、全体の約9%(182名/1933名)にとどまることが判明。残りの約90%は、非効率的呼吸パターンを有していたという。
今回の研究結果について研究チームでは、アスリートの健康管理やトレーニングにおいて、呼吸パターンに着目することの重要性を示すものとなったとする。呼吸機能の低下は、酸素という栄養素を脳に供給することを妨げてしまうため、脳は疲弊して、心身の状態をうまくコントロールすることができなくなってしまう。大多数のアスリートが非効率的な呼吸パターンを有しているということは、安静時であっても心身が絶えず緊張または興奮状態にあり、疲労が蓄積しやすくなっている可能性が推測されるとしている。
また、適切な呼吸は脊椎や体幹部の安定性に貢献するため、呼吸機能を改善することによって、運動パフォーマンスにも好影響を及ぼす可能性が考えられるという。そのため、今回の研究結果から、アスリートの呼吸パターンを評価した上で、呼吸を活用したエクササイズをトレーニングやコンディショニングに取り入れることの必要性が示唆されたとのことで、今後は、非効率的呼吸パターンがスポーツ外傷・障害の発生率とパフォーマンスに及ぼす影響や、呼吸パターン改善のトレーニング効果を検証していくことで、さらなる研究の発展が期待されるとしている。