核融合科学研究所(核融合研)は5月19日、プラズマ中に発生する乱流によってプラズマ自体の温度が下がってしまう問題に対し、核融合研所有の超伝導コイルを用いた世界最大級の実験装置「大型ヘリカル装置」(LHD)において、プラズマ中で熱が逃げていく際に、時速5000kmの熱の伝搬速度よりも8倍速く移動していく乱流を発見したと発表した。

同成果は、核融合研の釼持尚輝助教、同・居田克巳教授、同・徳澤季彦准教授、米・ウィスコンシン大学のダニエル・J・デン・ハートッグ教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

核融合発電を地上で実現するためには、1億度以上のプラズマを磁場で長時間安定して閉じ込め続けることが必要とされているが、磁場で閉じ込めた高温のプラズマ中に、大小さまざまな大きさの渦を伴った流れである「乱流」が発生し、プラズマをかき乱すことで、プラズマの熱を外へと流出させ、プラズマの温度を下げてしまうという課題があった。LHDでは、2017年にイオン温度1億2000万℃のプラズマ生成に成功しているが、この乱流問題を解決しなければ、1億度以上のプラズマを安定して長時間維持し続けることは難しとしており、プラズマ中の熱と乱流の特性理解に向けた検討が進められてきたという。

熱と乱流の関係を理解するために、実験ならびに計算機シミュレーションを用いた研究が数多く進められてきたが、プラズマの乱流は複雑であり、いまだにその全容解明には至っていないとする。特に、発生した乱流がプラズマ中をどのように移動するのかについては、微細な乱流の時間変化を高い感度で極めて詳細に計測する機器が必要であるため、十分に理解されていないという。

磁場で閉じ込めたプラズマ中には、中心から外へと向かう熱の流れを止める働きをする「堰(せき)」が形成されることがあり、これによりプラズマ中に強い圧力勾配が形成され、乱流が発生してしまうことが知られている。そこで研究チームは、磁場構造を工夫して、この堰を壊す手法を開発。堰が壊れることで勢いよく流れ出す熱と乱流に注目して、それらの関係を詳しく調べることにしたという。

  • LHDプラズマの断面図

    LHDプラズマの断面図。(左)LHDではプラズマの乱流と電子の温度と熱の流れが、さまざまな波長の電磁波を用いて計測されている。(右)プラズマ断面の電子の温度分布。磁場で閉じ込められたプラズマ中には、中心から外へと向かう熱の流れを止める働きをする堰が形成されることがある (出所:核融合研Webサイト)