東北大学は5月13日、超伝導体の量子現象と量子ビットの有力候補「単分子磁石」に関する知見を融合することによって、磁性金属錯体(単分子磁石)のスピン状態を電流利用で読み込むことに成功したと発表した。
同成果は、東北大 多元物質科学研究所のS・M・F・シャヘド助教、同・米田忠弘教授、東北大 理学研究科の山下正廣名誉教授、城西大学理学部の加藤恵一准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行するナノサイエンスとナノテクノロジーに関連する分野全般を扱う学術誌「ACS Nano」に掲載された。
実用的な量子コンピュータ、ならびにその中核となる情報の単位である量子ビットに関するさまざまな研究が進められている。磁性分子のスピン利用も量子ビット候補の1つであり、実際に電子スピン共鳴(ESR)/核磁気共鳴(NMR)を利用して、量子コンピュータの動作の検証は、ほかの手法に先駆けて2000年に実証済みだという。
しかし、量子ビットの材料として今後も発展するためには、電磁波を用いて多数の分子で演算する大型装置から、電流を用いた少数分子の局所領域での演算への変更が必要であり、その実現のためには、電流でESR/NMR観察を可能にすることが求められているとされる。
近年、分子合成が進歩し、スピンの方向や位相を長時間保持する特性が分子設計・合成の進歩とともに得られるようになってきた。特に、分子1個が磁石のような性質を示す単分子磁石は、スピンの向きを高い温度で保持できる有力候補であり、中心金属のスピンが量子ビットとして利用されることが期待されているが、その電流での読み出し技術は緒についたばかりだという。
こうした背景のもと、研究チームは今回、単分子磁石を合成し、超伝導体を電極基板として用いることで生じる量子状態をトンネル電流で読み出すことに挑むことにしたという。