東京大学(東大)と理化学研究所(理研)は5月13日、内壁がフッ素で密に覆われた内径0.9nmの「フッ素化ナノチューブ」を超分子重合により開発したこと、ならびに同チューブが塩(塩化物イオン)を通さないが、これまで目標とされてきた、細胞の水取り込みに関係する細胞膜に存在するタンパク質である「アクアポリン」の約4500倍の速度で水を透過することを確認したことを発表した。

同成果は、東大大学院 工学系研究科 化学生命工学専攻の伊藤喜光准教授(JST さきがけ 研究員)、同・陳碩大学院生、同・平原良太大学院生(研究当時)、同・誉田剛士大学院生(研究当時)、同・青木翼大学院生、東大大学院 薬学系研究科 薬科学専攻の上田卓見准教授、同・嶋田一夫教授(現・理研 生命機能科学研究センターチームリーダー)、東大大学院 工学系研究科 機械工学専攻のジェームズ・J・キャノン特任助教(現・九州大学 機械工学部門准教授)、同・チェン・シャオ特任研究員、同・塩見淳一郎教授、東大大学院 工学系研究科 応用化学専攻の田端和仁准教授、同・野地博行教授、東大大学院 工学系研究科 化学生命工学専攻の佐藤浩平大学院生(現・東京工業大学 生命理工学院助教)、理研 創発物性科学研究センターの相田卓三副センター長(東京大学卓越教授(国際高等研究所東京カレッジ))らの共同研究チームによるもの。詳細は、米科学誌「Science」に掲載された。

世界中で水不足が課題となっていることから、持続可能な社会の実現のためには海水の淡水化技術が必要不可欠とされ、これまでさまざまな水処理膜が開発されてきた。しかし、地球規模の飲料水不足の解決のためには、現在用いられている水処理膜の能力を大幅に高めることが求められている。

水処理膜の能力を向上させるための基礎研究においては、これまで水分子1個がやっと透過するような内径0.3nmの小さな穴を有し、高い水透過能と高い塩除去能を併せ持つアクアポリンが注目されてきたほか、アクアポリンの構造と性能に触発され、カーボンナノチューブ(CNT)など、アクアポリンを模倣したさまざまなナノチューブの研究も報告されてきたが、アクアポリンの性能を大幅に超えるものは報告されていなかったという。

そこで研究チームは今回、内側にフッ素原子が密に結合した大環状化合物を、超分子重合と呼ばれる手法で一列に重ねることで、内壁がテフロンのように密にフッ素で覆われたフッ素化ナノチューブの開発を開始。完成したフッ素化ナノチューブの水透過能と塩除去能の評価を行った結果、アクアポリンの約4500倍ほどの水透過能を持ちながら、塩(NaCl)をはじめとする塩化物イオンを通さないことが確認されたという。

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    超高速水透過と脱塩を両立するフッ素化ナノチューブ (出所:東大プレスリリースPDF)