産業技術総合研究所(産総研)は4月27日、窒化物半導体、特に「窒化インジウム」(InN)や、インジウム含有率の大きい「窒化インジウムガリウム」(InGaN)に対する薄膜結晶の新しい気相成長技術を開発したと発表した。

同成果は、産総研 窒化物半導体先進デバイスオープンイノベーションラボラトリの王学論ラボチーム長、同・熊谷直人チーム付、同・山田永ラボチーム長、産総研 電子光基礎技術研究部門の榊田創研究部門付、同・清水鉄司研究グループ長らの研究チームによるもの。詳細は、材料科学および材料工学に関する学際的な分野全般を扱う学術誌「Applied Materials Today」に掲載された。

InNは窒化物半導体の中で最大級の電子移動度を有し、近赤外に対応したバンドギャップエネルギーを持つことから、ポスト5Gに向けた次世代高周波デバイス、波長の温度依存性が小さいレーザーなど近赤外光デバイスの基盤材料として有望視されている。

一方のInGaNは、Inの含有率を増やすことによって、発光波長を紫外から近赤外まで長波長化することが可能であるため、地上での太陽光の波長域に対応した高効率太陽電池や赤色のマイクロLEDなどへの応用が期待されており、中でも赤色発光マイクロLEDの高効率化により、VR/AR用途の最有力候補であるマイクロLEDディスプレイの実現につながるとされている。しかし、こうした高効率太陽電池および赤色マイクロLEDの実現のためには、In含有率が30~100%(100%はInN)および30~40%のInGaNがそれぞれ必要とされている。

有機金属気相成長(MOCVD)法を用いたInNや高In含有率InGaNの成長においては、In原子は成長表面から脱離しやすく、800℃以上の温度ではほとんど結晶中に取り込まれないため、650℃以下の低い温度を制御することが重要とされている。しかし従来のMOCVD法では、アンモニアガスの効率的な分解のためには900℃以上の高温が必要とされ、650℃程度の低温においては、十分な量の窒素系活性種を成長表面に供給することができず、高性能なデバイスに要求される高い電子移動度や高い発光効率を持つ薄膜結晶の作製が困難とされていた。

そこで研究チームは今回、既存の原料ガス導入ユニットに準大気圧プラズマ源を統合させたプラズマMOCVD装置を開発することを決定。中心部にプラズマ源の先端ノズルを配し、周囲の穴からGaやInを含む有機金属原料ガスおよび窒素などの補助ガスが供給される仕組みを採用したとする。

  • プラズマ源とインジウム原料ガス供給ラインを統合した原料ガス導入ユニットの模式図

    (左)プラズマ源とインジウム原料ガス供給ラインを統合した原料ガス導入ユニットの模式図。(右)InN薄膜結晶の透過電子顕微鏡像。図中の矢印は表面付近の転位が示されている (出所:産総研Webサイト)