茨城大学は4月6日、有機ELに利用されるホウ素発光体を光触媒に利用することで、大気中の酸素と白色光によってリン化合物や硫黄化合物を効率的に酸化できることを明らかにしたと発表した。

同成果は、茨城大大学院 理工学研究科(工学野)の近藤健助教、同・吾郷友宏准教授の研究チームによるもの。詳細は、英王立化学会が刊行する化学全般を扱う学術誌「Chemical Communications」に掲載された。

大気中の酸素を酸化反応における酸化剤として利用できれば、反応後の廃棄物を削減でき、環境に優しい酸化反応を実現できるとされるが、通常は空気中の酸素は不活性であるため、酸化剤に利用することは困難とされている。そうした中、近年注目されているのが、光エネルギーを化学反応のエネルギー源に変換することで、酸素を活性化し、酸化反応を促進する「光触媒」だが、その多くは貴金属や紫外光などの高エネルギー光を利用しなければ反応が進行しないといった問題があり、「貴金属フリー・可視光線で働く触媒」の開発が求められていた。

そこで研究チームは今回、近藤助教のチームがこれまでの研究で獲得してきた光化学・触媒化学に関する知見と、吾郷准教授が開発した含ホウ素発光体を組み合わせることを検討。それにより、白色光をエネルギー源として大気中の酸素を酸化剤とする、新しい光触媒が実現できると考察したという。

具体的には、含ホウ素発光体の光触媒能の実証のために、室温下において同発光体を用いてリン化合物の酸化反応が検討されたところ、大気中、白色光照射下という条件では8時間後に59%の収率で酸化体が得られたとするほか、ホウ素を有さない化合物を使った場合は、5%以下と反応がうまく進行しなかったことから、ホウ素部位が光触媒機能に重要であることが示唆されたとしている。また、59%の収率が確認された含ホウ素発光体に臭素原子を導入した触媒の場合ではより高い触媒活性を示し、95%以上という高い収率で目的酸化体を生成することが確認されたともする。

また、この触媒を用いれば、リン化合物に加え、硫黄化合物も空気酸化が進行し、目的の酸化生成物が高い収率で得られることも判明したとするほか、この硫黄化合物の酸化では、酸化が一段階進んだ「スルホキシド」が選択的に得られ、過剰酸化による「スルホン」は生成されなかったともしている。

さらに、高い活性が示された触媒のホウ素部位の役割検証のために量子化学計算が行われたところ、ホウ素触媒は同反応において、以下の2点の機能が示されたという。

  1. 白色光の光エネルギーを使って大気中の三重項酸素分子(3O2)を反応性の高い一重項酸素分子(1O2)に活性化する
  2. 1O2と出発原料であるリン化合物から生じる過酸化物中間体を捕捉・活性化する

これは、今回見出された空気酸化反応において、ホウ素触媒は光エネルギーを化学エネルギーに変換することに加え、反応途中に生じた中間体分子の活性化機能を併せ持っていることを示すものであり、この成果を踏まえ、研究チームでは今後、リンや硫黄だけでなく、炭素やケイ素の空気酸化反応を検討するとともに、触媒デザインをブラッシュアップし、照明器具や太陽光などの身近な光エネルギーと空気を活用する酸化反応にも展開する予定としている。

  • ホウ素触媒の役割

    ホウ素触媒の役割 (出所:茨城大プレスリリースPDF)