東北大学は4月1日、宮城県南三陸町歌津地域の約2億4800万年前の下部三畳系大沢層から発見された化石が、世界最古かつ新属・新種のベレムナイト化石であり、「Tohokubelus takaizumii Niko and Ehiro(トウホクベルス・タカイズミイ:Tohokubelus takaizumiiが種名、Niko and Ehiroが命名者、以下T. takaizumii)」として学術記載・公表したことを発表した。
また、これまでベレムナイトの出現は、後期三畳紀初期(約2億3500万年前)と考えられていたが、今回のT. takaizumiiはそれをおよそ1000万年さかのぼることも併せて発表された。
同成果は、広島大学 総合科学部の児子修司博士、東北大 総合学術博物館の永廣昌之協力研究員(東北大学名誉教授)らの研究チームによるもの。詳細は、日本古生物学会の刊行する欧文学術誌「Paleontological Research」に掲載された。また、東北大 総合学術博物館では4月1日から、今回発見されたT. takaizumiiがミニ企画展「南三陸で発見された世界最古のベレムナイト化石」として展示されている。
T. takaizumiiの新属名Tohokubelusは、東北地方または地質学的には東北日本の「東北」に由来する。また、種小名のtakaizumiiは新属新種のホロタイプ標本の採集者である高泉幸浩氏に献名したものだという。
新属Tohokubelusは、鞘(rostrum)の背面にタテ方向の1本の溝があることで特徴づけられ、Sinobelemnitidae科に含まれると考えられるという。Sinobelemnitidae科には、これまで2つの属、Sinobelemnites Zhu and Bian、1984(南中国の上部三畳系および南三陸の最下部ジュラ系から産する)とSichuanobelus Zhu and Bian、1984(南中国の上部三畳系産)が知られていた。
これらのうち、新属Tohokubelusは、Sichuanobelusに類似するが、Sichuanobelus属は円錐形でやや扁平な横断面を示すこと、および背面の溝がTohokubelusに比べて浅いことで異なるという。また、Sinobelemnites属は表面に条線を持つ点で明瞭に区別されるとしている。
,A@ベレムナイト|
T. takaizumiiが発見された大沢層は、世界最古の魚竜化石の1つである「ウタツサウルス」を産することで知られた地層であり、共産するアンモノイド化石から、前期三畳紀オレネキアン期後期(およそ2億5万年前~2億4700万年前)の地層であることが明らかにされている。
ベレムナイト類(ベレムナイト目)は中生代を代表する頭足類の仲間で、その最初の出現は、これまで後期三畳紀初期のカーニアン期(およそ2億3500万年前~2億2500万年前)とされていた。つまり、今回の大沢層からでの発見は、その生存期間の下限を1000万年以上さかのぼらせるもので、ベレムナイト類の発生や拡散過程を考える上で重要な発見となるとする。
中国の後期三畳紀のベレムナイトや、歌津地域の初期ジュラ紀の大型ベレムナイトといった産出記録も合わせて考えると、ベレムナイト目は、前期三畳紀に、当時の超大陸西部に広がる大洋パンサラッサ海最西端の低緯度地域に最初に出現。次いで、その生息範囲をパンサラッサ海から西方に向かう赤道海流によって地球を半周して、テチス海域へと広げ、将来的にヨーロッパとなる地域に到達したことが考えられるとしている。
ヨーロッパの研究者たちは、ベレムナイトは初期ジュラ紀にヨーロッパ地域に現れ、その後世界の海に広がって行ったと考え、中国産後期三畳紀ベレムナイトは疑問視されたり、半ば無視されたりしてきた。北海道大学の伊庭靖弘博士らの研究チームは、南三陸の初期ジュラ紀の地層から多様なベレムナイト化石を報告するとともに、中国の後期三畳紀ベレムナイトを再検討し、ベレムナイトの発生が三畳紀にさかのぼること、ベレムナイトの起源が東アジアに求められる可能性が大きいと主張した。
今回の南三陸の下部三畳系からのベレムナイトの発見は、ベレムナイトの発生が前期三畳紀までさかのぼることを明らかにするとともに、ベレムナイトの起源が東アジアにあった可能性を高めるものだという。
なお、大沢層からは、魚竜やアンモノイドのほか、国内唯一の嚢頭類化石や日本最古のエビ化石などが産出されていることでも知られていて、日本の三畳紀における古生物研究において極めて重要な地層で、今後も新たな発見が期待されるとしている。