宇宙航空研究開発機構(JAXA)は1月13日、小惑星探査機「はやぶさ2」に関する記者説明会を開催。6月に開始される予定の国際公募に向け、小惑星リュウグウから持ち帰ったサンプルのカタログを公開したことを明らかにした。また先日、論文として発表された初期記載の科学成果についても説明があった。

買い物感覚でカタログを楽しもう

はやぶさ2は2020年末に帰還。カプセルの中からは、約5.4gもの大量のサンプルが見つかった。このサンプルを詳しく調べることで、太陽系の進化や生命の材料などについて、様々なことが分かると期待されているが、そのためにもまず行う必要があるのは、どんなサンプルがあるのか、全体像を把握し、カタログ化することである。

こういった一連の作業が、JAXA相模原キャンパスで実施されているキュレーションである。ここで最も重要なのは、貴重なサンプルを汚染・破壊しないこと。そのため、調査手段は限定的になるものの、これまで、光学顕微鏡や赤外分光顕微鏡(MicrOmega)などによる観察が行われ、カタログへの記載が進められてきた。

そして今後開始する国際公募では、サンプル全体の15%が提供され、世界中の研究者による詳細な分析が本格化する。ここでは、X線分光計、電子顕微鏡、質量分析計など、破壊的な分析も行われ、鉱物や有機物の種類など、詳しい情報が明らかになる。カタログは、研究者がテーマを決めるためにも、欠かせない情報源なのだ。

  • はやぶさ2サンプルカタログ

    国際公募のサンプル分配は6月より開始。テーマは世界中から募集する (C)JAXA

今回、WEB上で公開されたカタログに登録されているのは443粒子。それぞれの粒子について、サイズや重量、顕微鏡画像、MicrOmegaデータなどを見ることができる。条件による絞り込みやソートの機能まで用意されており、たとえばサイズでソートしてみると、最大の粒子は直径が10.345mmであることが分かる。

カタログの公開先

  • はやぶさ2サンプルカタログ

    サイズでソートすると、1cm超えの大物が見つかった。カートまであり、まるで買い物感覚で楽しめる (C)JAXA

このカタログは本来、研究者向けのものではあるが、一般公開されており、誰でも自由に閲覧可能だ。キュレーションを統括するJAXA宇宙科学研究所 地球外物質研究グループ長の臼井寛裕氏は、「科学に興味のある学生や子供にも見て欲しい。世界レベルの研究者と同じデータで、夏休みの宿題もできる」とコメント。

楽しみ方については、「プロ用の高精度な画像になっているので、ダウンロードしてPCやスマホで拡大して見たりすると面白いのでは」と紹介。「中には特異な粒子もあると思うので、我々がまだ気づいていないことを見つけてもらえると、キュレーショングループとしても嬉しい」と、期待を述べた。

  • はやぶさ2サンプルカタログ

    JAXA宇宙科学研究所 地球外物質研究グループ長の臼井寛裕氏

1%のレア粒子はどうやってできた?

このキュレーションの初期記載における科学成果は、2本の論文として、Nature Astronomy誌に掲載された。1つは、サイズや密度の物性に関するもの。そしてもう1つは、MicrOmegaの分析結果をまとめたものだ。

光学顕微鏡による観察で見られた特徴の1つとしては、高温包有物が無かったことがあげられるという。通常の始原的な隕石の中には、球状の粒子や白っぽくなった粒子も見られるのだが、リュウグウのサンプルではこれらが全く見つからなかった。これは、溶けるような高温を経験しておらず、低温な状態が維持されていたことを示す。

粒子の密度について、平均値は1,282kg/m3だった。これは非常に軽く、既知のどの隕石よりも小さい。軽いのは空隙率が高いためで、チームは46%と推定。リュウグウの遠隔観測から推定された30~50%という数値とも整合的だ。なお隕石がもっと重いのは、ある程度強度の高いものしか地上に到達しないためと考えられる。

  • はやぶさ2サンプルカタログ

    左が光学顕微鏡の写真、右が粒子の密度分布 (C)JAXA

赤外反射スペクトルでは、含水鉱物に特徴的な2.7μm帯と、有機物や炭酸塩鉱物に特徴的な3.4μm帯で、吸収特性が見られた。可視スペクトルでは、かなり暗く、平坦な反射特性を示した。これは、非常に始原的な隕石であるCIコンドライトの特徴に似ている。それよりも暗いのは、宇宙風化の影響の可能性がある。

  • はやぶさ2サンプルカタログ

    左が赤外反射スペクトル、右が可視スペクトルのグラフ (C)JAXA

MicrOmegaは、1ピクセルあたり22μmという高い空間解像度を持っており、粒子1つ1つの特徴を調べることができる。3.4μm帯の吸収を分析したところ、2種類の特徴が見つかった。99%の粒子は、CH基(脂肪族有機化合物)の特徴を示した。分子の長さまでは分からないものの、これは高温を経験していないことを示唆している。

対してわずか1%の粒子では、炭酸塩の特徴が見られた。炭酸塩は、地上だと鍾乳洞などで見られるもの。最大サイズである0.4mm程度の粒子を詳しく調べると、Fe2+を含む炭酸塩である可能性が高く、これは水質変成の有力な証拠となる。

  • はやぶさ2サンプルカタログ

    擬似カラー化すると、特徴的な粒子が周囲から浮かび上がる (C)JAXA

これらの分析結果は、全て整合的だ。リュウグウは、もっと大きかった母天体が壊れ、再集積してできたと考えられている。母天体の中心付近では、温度上昇によって水質変成が進んだのに対し、体積で圧倒的な外側では、低温が保たれた。衝突でバラバラになったものが再集積で混ざったのであれば、この量的な差も説明しやすい。

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    MicrOmegaの分析でも、全体的にCIコンドライト的だった (C)JAXA